祝94歳クリント・イーストウッド、“映画界の二刀流”の先駆者が築いた功績と継承者たち
5月31日(金)はクリント・イーストウッドの94歳の誕生日。イーストウッドといえば、俳優としてはもちろん、監督としても偉大な業績を残してきている“映画界の二刀流”の先駆け的存在だ。CS映画専門チャンネル「ムービープラス」では、そんな彼の誕生日を祝して「24時間 クリント・イーストウッド誕生祭」と題して、「ダーティハリー」シリーズなど10作品を5月30日から31日にかけてぶっ通しで放送するということで、今回はイーストウッドの功績と、彼に続く“映画界の二刀流”を何人か紹介する。 【写真】若い…!50年以上前のクリント・イーストウッド(「ダーティハリー」より) ■デビュー作は「半魚人の逆襲」その後のマカロニ・ウエスタンブームで頭角を現す イーストウッドは、1930年5月31日にアメリカ・サンフランシスコで生まれた。1954年、いくつもの作品のオーディションに参加するがその多くは落選となってしまう。しかし、ジャック・アーノルド監督の「大アマゾンの半魚人」の続編となる「半魚人の逆襲」(1955年公開)のオーディションに合格し、ジェニングスという研究員役で映画デビューした。続けて、いくつかの映画に出演するがいずれもセリフの少ない端役ばかり。テレビドラマにも進出するが、あまり良いスタートとは言えない状況だった。 そんなイーストウッドだが、西部劇シリーズ「ローハイド」への出演がきっかけで、大きく風向きが変わる。この作品は1959~65年まで続いた人気シリーズとなり、エリック・フレミングが演じたギル・フェイバー隊長の補佐を務める副隊長“ロディ・イェーツ”を演じ、一気に知名度を高めた。 「ローハイド」での好演がきっかけで、1964年にイタリアのジョリー・フィルムからスペインで撮影を行う西部劇への出演依頼が来た。そして、「荒野の用心棒」をはじめ、「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」といった作品で“マカロニ・ウェスタン”が大きなブームとなり、その立役者として注目もグングン上昇。1968年、自身の制作会社「マルパソ・プロダクション」を設立。スペイン語で“険しい道”という意味だそうだが、この時点で、俳優と監督(制作)の二刀流の大変さも覚悟していたのかもしれない。1968年公開の映画「奴らを高く吊るせ!」が、マルパソ・プロダクション制作の最初の映画で、イーストウッドは主演と制作総指揮を担当。この作品の監督を務めたのはテッド・ポストで、のちに「ダーティハリー2」の監督も務めることになる。 ■アウトローの金字塔「ダーティハリー」シリーズでトップスターに その「ダーティハリー」こそが、イーストウッドをトップスターへと押し上げた作品、シリーズである。サンフランシスコ市警殺人課に所属するハリー・キャラハンは、組織や規則から逸脱しているアウトロー的な刑事で、職務遂行のためには暴力的な手段も厭わない。1971年製作で日本公開は1972年の第1作「ダーティハリー」はドン・シーゲルが監督を務め、“さそり”と名乗る無差別殺人犯を相手にハリーが大立ち回りを見せる。この“ダーティヒーロー”のハリーがウケて、法で裁けぬ悪人たちを処刑する過激な警官たちにハリーが立ち向かう第2作、新人女性刑事ムーアと組んで過激派グループと対峙する第3作、44オートマグナム片手に連続殺人事件を追う第4作、有名アーティストや高名な映画評論家などが狙われる連続殺人に取り組む第5作まで製作された。そのうち、4作目「ダーティハリー4」(1983年、日本公開は1984年)はイーストウッド自身が監督を務めている。監督ということで言えば、「ダーティハリー」と同じく1971年製作で1972年日本公開の映画「恐怖のメロディ」がイーストウッドの初監督作品となる。 監督業も俳優業と同じくらい真摯に向き合っており、アメリカ建国200周年記念作品の「アウトロー」、モダンジャズの父“バード”ことチャーリー・パーカーの伝記映画「バード」、西部劇を総括するような傑作「許されざる者」、大ベストセラー小説を原作にした本格的な恋愛映画「マディソン郡の橋」、ショーン・ペンやケビン・ベーコンらをキャストに起用した「ミスティック・リバー」、そして「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」「アメリカン・スナイパー」といった戦争を取り上げた作品もあり、そのジャンルの幅の広さに驚かされる。「グラン・トリノ」「インビクタス」「ハドソン川の奇跡」「運び屋」、2021年の「クライ・マッチョ」(日本公開は2022年)まで、監督として手掛けた作品は39作に及ぶ。 今回の「24時間 クリント・イーストウッド誕生祭」では「ダーティハリー」シリーズ1作目から4作目までの4作品、ベテランのシークレットサービスの姿を描いたサスペンス・アクション「ザ・シークレット・サービス」、腕っぷしの強いトラック運転手が全米各地で巻き起こすケンカと恋を描いた痛快アクション「ダーティファイター」「ダーティファイター 燃えよ鉄拳」、ドイツ軍最強の要塞を舞台にした戦争アクション「荒鷲の要塞」、ドナルド・サザーランドと共演した戦争アクション「略奪大作戦」(音声解説が聞ける“副音声でムービー・トーク!”/ムービープラスオリジナルの吹替完全版の2タイプ)が放送される。 ■イーストウッドに続け!次代の“二刀流”俳優 さらに、イーストウッドに続け!とばかりに、監督業でも才能を開花させている“二刀流”の俳優たちがいる。まずは、香港出身のサモ・ハン・キンポー。ブルース・リー「燃えよドラゴン」へのオマージュとして1978年に公開された「燃えよデブゴン」は日本でも大ヒット。コメディー要素満載で、彼らしさが詰まった作品となっており、主演・監督を務めている。ジャッキー・チェンとユン・ピョウとの共演作「五福星」もサモ・ハンが監督を担当。香港映画界のレジェンド的存在となっているが、2015年の「おじいちゃんはデブゴン」では20年ぶりにメガホンを取り、主演も務めて見応えのあるアクションを見せた。 サモ・ハンと共に香港アクションシーンを盛り上げたジャッキー・チェンも「プロジェクトA」や「ポリス・ストーリー/香港国際警察」などで監督を務めている。他に、“監督”ではないが「ボーン」シリーズでおなじみのマット・デイモンが2016年公開の「ジェイソン・ボーン」で“製作”に名を連ねており、ブラッド・ピットも自身の制作会社「プランB」を立ち上げ、「それでも夜は明ける」(2013年公開)では“プロデューサー”としてアカデミー賞の作品賞を受賞している。 なお、デイモンの「ジェイソン・ボーン」は5月30日(木)にムービープラスで放送が予定されているので、ぜひチェックしてもらいたい。 ◆文=田中隆信