スーパーに大行列の恥ずかしさ… 米の「パニック購買」は防げたはずだ
反省すべき「パニック」
実際、9月を迎えると、関東や九州からの新米が入荷されはじめた。9月中旬以降には、新潟や東北、北海道など米の産地から納品もされる見込みだ。パニック購買が起こらなければ、多少の欠品はあれど、新米の発売で対応できた可能性が高かった。 今回のパニック購買は人為的に起こったことは間違いない。これによって需給のバランスが崩れ、結果的に米の店頭価格は3~4割上がった。適正価格より高い価格で消費者が米を買うハメになったのである。パニック購買が起きなければ、騒動には発展しなかったし、消費者も財布を痛めることはなかったのだ。これは反省すべき点である。
今回の騒動から学ぶこと
一方、米の価格が上がることは農家にとっては嬉しいことでもある。北海道でブランド米「ななつぼし」を作る米農家の友人からは、「今年は米の概算金が上がり、収入が増えそうなので、久しぶりに東京に遊びに行けるかも」と連絡が来た。 概算金とは、農協が米農家に対して払う前払い金で、来年度の需要などを予想して価格が決定される。24年産米では前年比2~4割ほど上がったそうだ。米は日本の食を支える大切な作物、農家さんには、毎年東京に遊びに来られるぐらいの収入があってしかるべきだと思う。 食料自給率が38%しかない日本で、自給率100%近い水準を維持出来る数少ない作物が米だ。これを支える農家の廃業は相次いでいる。このまま農家の減少が進めば、将来的にさらにコメが不足し、値上がることは自明だ。米は、食料安全保障において、国内で最も重要な作物で、消費者はもっと意識して食べるべきだ。良質な日本米を使ったおにぎりや回転寿司はインバウンド客にも人気で、輸出の一角も担っていけるポテンシャルも持っている。 今回の米騒動ならぬ、米の欠品は、これをきっかけに、米について国民全員がしっかり考える機会にするべきではないだろうか。特に都市部の住民は、米を買い支えることで、日本の食文化や食の安全保障を守っていかなければならないのだから。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき) 消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。 デイリー新潮編集部
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