「引退した競走馬の多くは行方不明になっている」問題を知った『ウマ娘』ファンにより“一匹の高齢馬”に集まった大きな支援「ゲームが社会を変えた」
ベテラン広報部長として活躍していた、ナイスネイチャ
ドネーションを企画した認定NPO法人引退馬協会は、日本でもっとも歴史のある引退競走馬の支援団体だ。同協会では所有する馬を「フォスターホース」と称し、終生繋養を前提に会費や寄付、助成金収入を利用して多くの人で馬の余生を支え合う仕組みがある。ナイスネイチャはフォスターホースで最高齢の馬で、ベテラン広報部長として活躍していた。 ちなみにバースデードネーションというのは、誕生日を記念して友人や知人から募った寄付を支援先に贈る活動のことだ。同協会では2017年から毎年ナイスネイチャの誕生日にドネーションを実施していて、2020年は160万円の目標金額に対し約400人から170万円以上の支援金を集めていた。翌年の2021年は、『ウマ娘』の影響で約1万6000人から前年の20倍以上の支援金が集まったのだ。
ドネーションを企画した同協会の設立者であり代表理事の沼田恭子さんは、ゲームをきっかけにナイスネイチャへの支援が集まるなど想像もしていなかったという。 「ここ3年程、テレビや新聞、インターネットなどで引退したサラブレッドの現状やセカンドキャリアについての情報は徐々に増えてきましたが、これまで馬とはまったく無縁だった多くの人が引退競走馬に目を向けるきっかけをつくったということでは、『ウマ娘』以上に影響力のあるものはほかにありません」 ドネーションの支援者は「寄付そのものが初めて」という人がほとんどで、なにより沼田さんにとって嬉しかったのは、参加者のコメントだった。「元気で長生きしてください。来年も寄付したいです」「『ウマ娘』であなたを知ったにわかファンですが、今でも元気でいてくれたことがたまらなく嬉しいです」「また来年も再来年も、お祝いさせてください」など、どれもリアルなナイスネイチャへの温かな想いが伝わってくるものばかりだった。 「『ウマ娘』のファンの皆さんの想像力、そして感受性の豊かさに感動しました。ゲームが社会を変えた、といっても大袈裟ではないと思います」 沼田さんがそう言うのは、このムーブメントが一過性では終わらなかったからだ。バースデードネーションをきっかけに、引退馬協会の会員になったり寄付金を送る人が少なくなかった。さらに翌年に実施した「ナイスネイチャ 34歳のバースデードネーション」では、約1万7000人の支援者から約5400万円という前年を大幅に上回る支援金が集まった。 支援者にとっては、集まったお金の使い方が明確にイメージできることも重要だ。2022年は、怪我や痛みを抱えた引退競走馬たちが治療・療養・リハビリを経てセカンドキャリアをめざす「再就職支援プログラム」に、19頭の馬をつなぐことができた。『ウマ娘』ブームが起きた2021年は、繁殖馬として活躍した後に引退を余儀なくされた17頭の馬を同協会が実施する養老支援制度のフォスターホースとして迎え入れることができた。