【Bリーグ】川崎ブレイブサンダース小針幸也、もがき苦しみ描く成長曲線「すごく良い経験ができているし、すごく楽しい」【バスケ】
得点とコントロールのバランスを勉強中
昨季まで指揮を執った佐藤賢次HCの退任、ニック・ファジーカスの現役引退、そして藤井祐眞ら主軸の移籍──長くコアを務めた選手・スタッフの退団に伴って、川崎ブレイブサンダースは新たなフェーズに舵を切った。 新指揮官のロネン・ギンズブルグHCの下、昨季までのハーフコート中心のオフェンスから、スピードを生かしたアッステンポなスタイルへと一変。開幕4試合で1勝3敗と苦しい立ち上がりとはなったが、新体制1年目での“生みの苦しみ”の時期を送っている。ギンズブルグHCはアップテンポな展開を作り出す要はやはりポイントガードであると新体制発表会で話しており、過去4試合では篠山竜青(3試合)と小針幸也(1試合)の2人を先発で起用している。 10月18日の横浜ビー・コルセアーズとのゲーム1で先発したのは小針だった。名古屋ダイヤモンドドルフィンズとのゲーム2に続き、2戦連続の先発起用。同試合ではFG87.5%、3Pシュートも3/3で成功させ15得点と大活躍しており、彼が作り出すスピーディーな展開は、川崎の目指すバスケットにピタリと当てはまる。 だが、横浜BCとのゲーム1で、小針が輝くシーンはほとんどなかった。 まずスタッツを見てみると、16分3秒の出場でFG1/4の2得点。ターンオーバーはなかったものの、リバウンドとアシストはゼロで、3ファウルというものだった。 「スタートでもベンチでも自分の仕事はあまり変わらないです。ペースを上げたり、良い勢いを持ってくるという役割は変わらないので、そこは毎回意識してやってます。今日は相手が(ピック&ロールに対して)アンダーでディフェンスをしてきたんですけど、それにうまく対応できなくてビッグマンとのコミュニケーションもうまく取れず、それが最後まで続いてしまったので重たいゲームなってしまったかなと思います。後半、出られなかったのは、自分の出来が酷かったせいだと思います。今日は中に切り込む場面が1、2回くらいしかなくて、篠山(竜青)選手と使い分けている意味を出せなかったです。明日はしっかり修正して自分のアタックからオープンショット作ったりしていきたいです」 小針はこうゲームを総括した。彼の言葉どおり、この試合では篠山が出ている時間帯の方がチーム全体に連動性が生まれ、パスがよく回っていた。小針のスピードは間違いなく川崎のスタイルにマッチしているものの、この試合ではそれに見合った活躍ができなかった。 持ち味のドライブを生かして点を取ることと、ペイントアタックした後のキックアウトなどでチームを動かしていくこと──小針はその狭間でもがいている最中だ。 本人も「試合後に映像を見ると、前回の名古屋D戦もそうですけど、僕はどちらかというと最後までシュートに行き切ってしまう場面が多いです。もちろん入ればいいんですけど、この身長(172cm)でもあるので厳しいシュートになる前にストップしてパスを出したりとか、そこを考えてはいるのですが、今はどちらかというとゲームになると自分が点を取るというマインドになってしまっています。後から映像を見ると『ここに出しておけばよかったな』みたいなことも結構あります」と自認している。 ただ、この試合でも光るプレーはたしかにあった。 3Q残り2分3秒、ロスコ・アレンとのピック&ロールでペイントに切り込むと、杉浦佑成のヘルプをしっかりと見極めて左コーナーで待つ長谷川技にキックアウト。シュートこそ外れたものの、完璧なワイドオープン3Pをお膳立てしたこのプレーは、まさにギンズブルグHCが求めていたプレーだったはずだ。 小針は「あのキックアウトのプレーがネノコーチ(ギンズブルグHCの愛称)が求めているプレーだと思います。そればかり考えてしまうと、次はシュートを狙いにいかなくてアグレッシブさがなくなったりもしてしまうので、そこの判断がすごく難しいです。今はゲームの流れを読み取って、そこの折り合いをどういう付ければいいのかを勉強しています」と言う。篠山からも多くを学んでいる最中だ。「すごく勉強になります。篠山選手はストップするのがうまくて、あえて行き切らずにディフェンスを寄せてパス出すとか、そういうのを今勉強してます」 真にスピードを生かすためには、ゼロから100とトップスピードに持っていく速さに加えて、100からゼロとプレーのキャンセルができる状況判断力が必要になる。特に後者は言葉にする以上に難しいことだ。小針は、新たな環境でメンタルの浮き沈みもあると認めつつ、それでもこのチャレンジを「すごく良い経験ができているし、すごく楽しい」と話した。 神奈川県出身で桐光学園高、神奈川大を卒業した小針。今季は家族や友人も頻繁に試合を見に来てくれているそうで、それも励みになっている。 「昨季は家族や友達は1、2回ぐらいしか来られなかったです。でも、今季はホーム30試合を地元の神奈川で戦えるのがすごいうれしいですし、友達や家族からも『今週チケットを取れますか?』という連絡も来るので、そういうのを聞くたびに頑張ろうと思います。今季は家族は毎試合来てくれていて、今日も来ています」 横浜BCとのゲーム1は80-87で敗れ、チームは4連敗。支えてくれる人たちに勝利を届けるために、小針はまだまだステップアップする。そして、もがき苦しみながら描く彼の成長曲線は、そのまま川崎の成長曲線となっていくはずだ。
文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)