アクション超大作『十一人の賊軍』撮影現場に潜入!白石和彌監督が明かす、集団抗争時代劇へのロマンと山田孝之への信頼
『日本侠客伝』(64)、『仁義なき戦い』(73)のシナリオを手掛けた名脚本家・笠原和夫が遺したプロットを、「孤狼の血」シリーズの白石和彌監督が映画化した『十一人の賊軍』(11月1日公開)。第37回東京国際映画祭のオープニング作品にも選出された本作は、戊辰戦争の最中の新発田藩(現在の新潟県新発田市)を舞台に、砦を守り切る任に就いた罪人と侍たち決死隊の壮絶な戦いを描くエンタテインメント超大作だ。 【写真を見る】白石和彌監督と11年ぶりにタッグを組む山田孝之 W主演を務めるのは、白石監督と『凶悪』(13)以来11年ぶりにタッグを組む山田孝之、そして『すばらしき世界』(21)など近年目覚ましい活躍を続け、2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の主演に抜擢された仲野太賀。さらに尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音ら個性的なキャストが砦を守る“賊軍”を演じる。MOVIE WALKER PRESS編集部は約1年前の2023年9月に千葉県鋸南町に建てられたオープンセットに潜入!豪華キャストが参加したアクションシーンの撮影の模様と、白石監督のインタビューをお届けする。 ■集団抗争時代劇への憧れと笠原和夫のプロットとの出会い この日まず見学したのは、新政府軍が遠くの崖上から大砲で賊軍が守る新発田藩の本丸を砲撃するシーン。阿部サダヲ演じる新発田藩の実権を握る溝口内匠の政治的な戦略で組むことになった旧政府軍の侍と賊軍が、新政府軍を迎え撃つ場面だ。政役の山田孝之、鷲尾兵士郎役の仲野太賀、なつ役の鞘師里保、赤丹役の尾上右近、ノロ役の佐久本宝、引導役の千原せいじ、おろしや役の岡山天音、三途役の松浦祐也、二枚目役の一ノ瀬楓、辻斬役の小柳亮太、爺っつあん役の本山力、入江役の野村周平、荒井役の田中俊介と、賊軍キャストが一同に介した。この俳優たちをキャスティングすることだけでも大変だが、そもそもなぜ白石監督は多数のメインキャストを要する時代劇を作りたかったのか? 「僕が観ていた時代劇は小林正樹監督や黒澤明監督の映画なのですが、時代劇の中でもやっぱり大勢で戦う集団抗争時代劇が好きでした。時代劇を撮るうえでの僕にとってのロマンみたいなところがあって。なんかいい題材があったらやりたいなって思ってたんですよね。そんななかで『昭和の劇』という書籍で笠原さんも以前集団抗争時代劇を書いたことがあったけど、いろんなことが重なって実現しなかったという話を知って、巡り合ったのが『十一人の賊軍』のプロットでした。で、これを見つけたころは『この映画は大作になるだろうし、 僕なんかには到底無理だな』って思ってたんですけど、一緒に組んでくれている紀伊(宗之)プロデューサーと話していくなかで、『それやりましょう』という話になったんです」。 ■東京ドーム1個半の巨大オープンセットに砲台、吊り橋、砦を建造! 崖のうえに置かれたいくつもの砲台、大門や物見やぐら、最奥に建つ本丸。撮影現場の東京ドーム約1個半の巨大オープンセットには、約2か月をかけていくつものセットが建てられていた。大門の前にかかる吊り橋(完成した映画ではVFXで渓谷が追加されている)は徳島県にある祖谷のかずら橋をモデルに、全長約30m、横幅約1.8mの大きさのものを作り上げた。実際に高さ約6m物見やぐらに登らせてもらったが、砦の全景が見渡せるほどで、この高さで演技をする俳優たちのすごさを改めて感じた。 また、並べられた大砲は間近で見ると巨大で、そのすさまじい威力を容易に想像できる。劇中ではそこから放たれた砲撃が本丸を直撃し、決死隊の荒井が負傷。それを眼前で見ていた兵士郎が奇策を提案する展開へとつながっていく。火薬を使う場面のため、入念にテストが繰り返され、狭い本丸の中には煙が充満。キャストたちは暑さと息苦しさに耐えながら演技し、白石監督はその様子をセットから離れたモニターの前で見守っていた。 この壮大なセットやロケ地について監督は「『笠原さんが企画した60年代に、東映の京都撮影所で撮ったらどんな感じだっただろう?』というのをずっと考えていました。おそらくここまでの大きなセットにはならなかったんじゃないかな。鋸南にセットを建てた理由は、全国いろいろとロケハンをして舞台でもある新潟でもロケを考えてたんですけど、ここは僕にとってもなじみ深い場所で様々な条件を考えて鋸南にしたんです。今日も砲撃を受けて本丸がぶっ壊れたりするシーンだったんですけど、セットをどうやって思いっきり壊すか、壊すことの楽しみみたいなものを考えながら撮影していて、ちょっと楽しいです。贅沢にやりたいなと思っています」と撮影を楽しんでいるようだった。 ■『凶悪』以来11年ぶり!山田孝之を起用した白石監督の思い 続いて見学したのは、ノロが爆弾を投げ、戦闘中だった政と新政府軍が吹っ飛ぶシーン。まずは刀を持った政と新政府軍が本丸の前で戦い始めるのだが、山田とは『凶悪』以来のタッグとなる白石監督。彼を起用した理由は「映画作りをもう1回ちゃんと自分の中に落とし込むにはどうしたらいいんだろうと、ここ数年もがき続けていて。 山田さんは『凶悪』に出演してくれて、海のものとも山のものともわからない僕をある意味“映画監督”にしてくれた人でもあるから、山田さんともう1回組むことで、僕を初心に戻してくれて、 純粋に映画作りをできるんじゃないかなと思ったんですよね」と、自らが映画と向き合うためにも山田ともう一度仕事がしたかったという。 その山田が演じる政は、新発田藩士に妻を襲われ復讐をしたことで罪人になった駕籠(かご)屋の男。体に傷跡や入れ墨のメイクを施された山田演じる政が、刀をデタラメに振って敵に立ち向かっていくシーンは、再び生きて妻と会うことを願う政の気概がひしひしと伝わってきた。本作のアクションでは、CGをほとんど使っていない分、肉体的なスピードや柔軟性が求められるなか、政が爆風で吹っ飛んでからすぐに起き上がり、ノロから火の点いた爆弾を奪って新政府軍へ投げる場面はとてもスピーディに展開。山田の身体能力の高さを改めて証明したシーンだった。 また監督によると、爆弾に火を点ける花火師の息子であるノロという少年と賊軍で唯一の女性であるなつのキャラクターには「いまの時代に作る時代劇としてメッセージを込めたかった」と、特別な意味付けがなされている。また、「笠原さんのプロットでは賊軍が最後全員死んでしまう結末で、それに対して当時の京都撮影所所長だった岡田茂さんから『そんな辛気臭いもん、やめろ』と言われたそうで(笑)。それは僕も岡田さんに少し共感するところがあって、脚本の池上(純哉)さんと一緒に練り直した部分でもあります」と元のプロットから改変した部分も教えてくれた。 子を堕ろされた恨みで男の家に火をつけ、罪人となったなつを演じるのは元モーニング娘。の鞘師里保。監督は「鞘師さんの持ってるピュアな部分や、 ダンスも含めたアーティストとしての立ち姿が美しいんですよ。なつは政と少しだけバディ感が出て、2人の相性がすごくよい」と鞘師の印象を語り、「なつ役を決めるまでいろんな人に会うつもりだったんですけど、『これ、絶対鞘師さんに戻ってくるな』と思って、鞘師さんはツアーの予定も入ってたんですけど、無理言ってなんとか出てくれませんかっていう話をして、 鞘師さんに決めました。結果、この賊軍のおじさんたちの中に紛れても違和感がなく、すごく良い方に演じてもらえたと思います」と、会心のキャスティングだったことも明かしてくれた。 ■笠原和夫の意志を継いだからには日本映画史に残る傑作に! 見学に訪れた時点で撮影開始から約1か月。最後に監督にいまの心境を聞くと、「もう特別な緊張感しかないですよね。やっぱり笠原さんは日本映画界で特別な存在ですし、やる以上は下手なことできないですし、もう日本映画史に残る傑作にしないとダメなんだろうなと思ってやっています。新潟にシナハン(脚本執筆のための取材)で訪れた時に地元の小料理屋さんを教えてもらったんですけど、そしたらそのお店の女将さんが東映の大プロデューサーだった日下部五朗さんの娘さんで、『もしご存命だったらこの作品にもかかわってくれていたかも』みたいな話をして。いろいろなご縁があって、映画製作の後押しにつながっている」と、緊張と期待を感じながら撮影しているようだった。 さらにこれまでとは違う発見や手応えもあったようで、「毎シーン10人以上のキャストが出ている映画は初めてですね。そのシーンの決め台詞を誰かが言う時に、そのキャラクターのワンショットを撮ることが当然だったんですけど、今回それが正解じゃないというか、4、5人いるグループショットで台詞を言って貰ったほうが強く響くのではないということを発見したりしています。とはいえ10人いたら10人ともきちんと撮りたくなって撮るんですけど、もうワンシーン撮るだけでもクタクタで(笑)。みんな考えていることがバラバラな時もあるんですけど、しっかりかみ合った瞬間の強さはほかの映画では違う感覚があります。毎日冒険しているような感じですね」と、純粋に映画作りを楽しんでいるように見えた。 取材・文/編集部