自分がいない朝礼の場で上司に勝手に「ゲイ」と暴露された 同意のない行為「アウティング」は命に関わる重要な問題
自分がいない朝礼の場で、その行為は起きていた。金融機関に勤めていた植田次郎さん(31)=仮名=は、ゲイであることを上司によって職場の人たちに暴露された。採用時に担当者にだけ伝えたことなのに…。そのことを知った際の怒りや悲しみ、不信感は今も心に残っているという。 性的指向を暴露され労災認定 初事例か、パワハラに該当
アウティングという言葉を聞いたことがあるだろうか。好きになる相手の性別「性的指向」や、自分の認識する性別「性自認」を本人の同意なく第三者に漏らすことを言う。2015年、同性愛者であることを暴露された学生がその後、転落死する事案が発生。アウティングは、性的少数者への差別や偏見を背景にした「人間関係を破壊する行為」との指摘があり、社会的な注目を集めた。 国は女性活躍・ハラスメント規制法の指針でパワハラの一類型に規定したものの、規制対象は職場だけ。労災認定の事例も出てきたが、禁止条例を制定する自治体はまだまだ限られている。当事者にとっては「命にも関わる重要な問題」(植田さん)。そうした認識と理解をどう広げていけばいいのか。(共同通信=金子美保) ▽誰に最初にカミングアウトするかを賭けていた同僚たち 植田さんは約6年前、金融機関に採用された際、人事担当者にだけゲイであることを伝えていた。就職活動を通じ信頼できる人だと感じたからだった。入社後に配属されることになったのは、ある地方の支店。着任する直前、あいさつのため初めて支店を訪れた時のことだ。支店長が「植田君に何か質問がありますか」と他の従業員に振ると、ある先輩が軽いノリで「彼女はいますか?」と聞いてきた。
後になって知ったことだが、植田さんが初訪問する以前の朝礼で、支店長は「次に来る新人は実はゲイですが、変な目で見ないように」と勝手に話していた。従業員たちは全員で「知らないふり」をすることを決め、その陰で植田さんが誰に最初にカミングアウトするかを賭けていたという。 だからなのか、職場では「彼女がいるのか、いないのか」をしょっちゅう聞かれた。営業担当として足を運んだ取引先でも、約1時間にわたって同じ質問を繰り返され、ゲイだと話さざるを得なくなった。植田さんは「泣きながら帰りました。普通に仕事がしたかった」と振り返る。 ▽飲み会での同期の会話に「何度も殴られるような気分」 自分の性自認などを打ち明けたり、公表したりするカミングアウト。「誰に」「どんなタイミングで」話すかは当事者にとって極めてセンシティブで、重大な問題だ。高校生の時、告白された同級生の女子と付き合ったことで自分の性的指向に気づいたという植田さん。なかなか周囲に打ち明けることはできなかった。