世界では「近視は病気だ」と認識されつつあるのに、日本で目が悪いことが軽視されすぎている理由
■近視が抱える将来的な「リスク」 近視は病気なのかについては、実は、専門家の間でもまだ議論の最中です。国によっても、学会によっても立場がさまざまで、コンセンサスがまだ得られていません。 非常に程度の強い近視は、すでに「病的近視」という言い方が定着しています。一方で、軽い近視はノーマルバリエーション――いわば鼻が高い、低いと同じ“個人差”であるという考え方が根強くあるのです。 ただ私は、近視は病気であるという立場をとります。鼻の高さや背の高さは、「何cmだったら正しい」というような、絶対的な正常値というものはありません。しかし目は、少なくとも近視でも遠視でもない「正視(せいし)」という正常な状態があります。このことから、単なる個人差では片付けられないと考えるからです。
たしかに、軽い近視はそこまで害はありません。ただ、近視というものは、将来どこまで進行するかわかりません。そうであるかぎり、どんな軽い近視でも進行抑制、つまり近視の治療に努めるべきでしょう。 症状が軽くても、治療するということは、病気であるということです。 そしてこれは最も大事なことですが、近視は、将来的に失明に至る可能性のある病気を引き起こすリスクを増やすことがわかっています。このことからも、近視は病気であるといえるのです。
具体的に言うと、程度の差はあるものの、近視の人は将来、緑内障、白内障、網膜剥離、近視性黄斑症といった病気にかかるリスクがはね上がります。こうした眼疾患はすべて、将来的に失明につながるリスクのある病気ということで共通しています。 たとえば、日本人の失明の原因の第1位である緑内障はどうでしょう。 目の中には、網膜から脳に通じる神経がありますが、それが一つひとつ死んでいってしまう病気で、目の圧力(眼圧)が高まることで血液の循環障害が起きたり、細胞が圧迫死したりしてしまうのが主な原因です。