焦点:トランプ勝利で円安再燃、揺れる利上げ慎重論 介入警戒感も浮上
Takaya Yamaguchi [東京 8日 ロイター] - 米大統領選でトランプ前大統領が勝利し、為替は円安に振れた。来年1月の就任に先立ち、トランプ減税や関税強化などの政策を織り込む形でドル高/円安が再び勢いづくことも予想され、今後の動向次第で政府内の利上げ慎重論に揺さぶりをかけそうだ。市場では介入警戒感も浮上している。 <「日銀への期待」明記へ> トランプ氏の大統領選勝利は、石破茂政権にとって、今月下旬の閣議決定をめざす経済対策に着手した矢先の一報だった。 複数の政府、与党関係者によると、経済対策では、1)物価高の克服、2)日本経済・地方経済の成長、3)国民の安心・安全の確保――という3本柱を想定している。予算や財政投融資、税制などを念頭に、あらゆる政策を総動員する姿を打ち出す。 デフレ脱却に向けては、引き続き日銀と足並みをそろえていく構えだ。素案では「日銀と緊密に連携し、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく」と記す。 首相は10月の就任直後に「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と言及。その後、自らの発言を打ち消したが、首相周辺では「個人消費が力強い回復には至っていない」(幹部)ことから、利上げは慎重であるべきとの声が残る。 先の衆院選で少数与党となった現政権は、野党とどう連携していくかも避けて通れない内政面の課題だ。金融政策運営を巡り、秋波を送る国民民主党からは「向こう半年は利上げを急ぐべきではない」(玉木雄一郎代表)との声が上がる。 <再浮上する年内利上げ説> もっとも、政治サイドがこうした姿勢を維持できるかは見通せない。 トランプ氏が掲げる政策には、代表的な減税措置のほか、関税強化や不法移民の送還なども盛り込まれ、実現すればインフレを促進させることになりかねない。 「インフレが再燃すれば米利下げの着地点が従来想定よりも高くなったり、再び(米国が)利上げに傾くこともあり得る。政策実現性の高まりは円安を誘発し、日銀の利上げを促す材料になる」とニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミストは言う。 円安は、輸出や対日消費を通じメリットが得られる半面、家計や中小企業への負担が膨らみやすい。放置すれば、金看板である「物価高に負けない賃上げ定着」にも黄信号が灯りかねない。 「トランプ氏の選出で米長期金利は低下しづらく、間違いなく円安圧力がかかりやすくなった。さらに円安が進めば12月の日銀利上げもあり得る」と、みずほリサーチ&テクノロジーズの太田智之チーフエコノミストは語る。 <円買い介入に制約なし> トランプ氏選出に伴う円の先安観を受け、介入警戒感もくすぶり始めた。為替円安を巡り三村淳財務官は7日、投機的な動向も含め、為替市場の動向を「極めて高い緊張感を持って注視する」と語気を強めた。 円相場は7日に一時1ドル=154円71銭と、7月30日以来の安値に下落していた。 三村財務官が極めて高い緊張感という新たな表現と併せ、「行き過ぎた動きに対しては、適切な対応を取っていく」と強調したことで、市場では「円安への警戒感が強まっている」(大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジスト)との受け止めが目立つ。 トランプ前大統領は今年4月、約34年ぶりのドル高/円安水準となったことを受け、SNS上に「大惨事だ」と投稿した。 就任以降も同様のスタンスをとるなら「円買い介入に制約をかけられることはない」と前出の石月氏は語る。「米国との協調介入もあり得る」と同氏はみている。