高台の団地から姿を消す路線バス 高齢化が進む住民には急勾配の「地獄坂」が待つ
地域住民の移動を支える公共交通機関が細ってきている。人口減や過疎化に加えて、新型コロナウイルス下での行動制限に伴う利用減も追い打ちをかけた。鹿児島県内も例外ではない。自由に動ける態勢づくりへどうすればいいか。地域公共交通の在り方を考える。(連載かごしま地域交通 第1部「ゆらぐ足元」⑤より) 鹿児島初の団地 紫原団地=1963(昭和38)年撮影■道路は暗がりが多く、「心臓破りの坂」も
「3年半の住民運動が実って通った路線で、どれほどみんなで喜んだことか」。鹿児島市明和5丁目の永吉団地に住む木山順子さん(84)は、鹿児島交通の路線バス運行が始まった25年前を懐かしむ。 東側にある国道3号沿いの玉江橋方向から団地に上る坂は勾配が急で、地元では「地獄坂」と呼ばれる。上り下りに苦労する住民の願いがかなって1999年4月、狭い道幅に合う小型バスが団地と市中心部をつないだ。 しかし新型コロナウイルス禍初期の2020年3月末、利用者減と運転手不足を理由に、住民に惜しまれながら20年の運行を終えた。団地内で乗り降りができなくなったバス利用者は、甲突川を渡った先の国道3号方面か、隣接する原良団地の南国交通バス停との往復を余儀なくされる。 後継の交通手段としてコミュニティーバス運行を求める声が上がり、住民は同年5月、市に最初の要望書を出した。市は利用予測や費用対効果、運転手不足の面から乗り合いタクシーを提案した。
□ ■ □ 木山さんらは、乗り合いタクシーは2時間前までの予約が必要など使いにくいとして「バス運行を求める会」を結成。署名を集めて20年9月、1100筆余りを市に提出する。住民と市の協議が長引く中、後継手段の早期実現を望む声もあり、21年7月に乗り合いタクシーが導入された。 永吉団地の1日平均利用者は初年度の21年度が5.4人(総数981人)。22年度3.8人(同934人)、23年度3.5人(同849人)と減少傾向だ。敬遠する住民は「早く予定を決めなければならず、キャンセルも2時間前までで気を使う」「通院で終了時間が分からないため予約できない」と理由を明かす。 バス廃止から4年半。高齢住民の多くは通院や買い物を家族に頼ったり、自ら運転したりして暮らす。国道3号のバス停を使う男性(68)は「年齢が上がるにつれ坂の上り下りがこたえる。いつまで歩いて行き来できるか不安」。ある80代女性はバス復活を願いつつ「(人口減で)今後乗る人も増えないだろうし、バスが戻るのは難しいでしょう」と諦めた表情を見せた。