あなたの仕事が際限なく増える原因は「不安」にある(滝川徹 時短コンサルタント)
■赤ちゃんには「迷惑」という発想自体がない
このように、前提となる考えが異なると人の行動は変わってくる。だがそもそも「人に迷惑をかけてはいけない」という考えは一体どこからきたのだろうか。 生まれたばかりの赤ちゃんには「迷惑」という発想自体がない。 ということは「人に迷惑をかけてはいけない」という考えは、後天的に身についたものだ。たいていは、幼少期に両親や学校の先生をはじめとした大人や社会に影響されたのだろう。問題は生きていくなかで身につけたこの考え方が、必ずしも正しいとは限らないということだ。 先程の仕事の依頼で言えば、部下によっては「コピーすら頼んでもらえなかった…」とか「コピーはやるから、会議でこの企画を通すことに専念してくれ」と考える部下もいるだろう。つまり「部下に仕事をお願いしたら迷惑をかけて嫌われる」という考えは、その部下にとって必ずしも正しいものではないのだ。正しくは「そういう時もあるし、そうでない時もある」だ。 にもかかわらず「他者に迷惑をかけてはいけない」と一本気に生きているとどうなるか。周囲に仕事を依頼することができず、他者を巻き込んで仕事を進める人と比べて仕事の生産性や効率に大きな差が生まれてしまう。 アランの言う「不安になったときに浮かぶ思考を信じてはいけない」の理由はここにある。「嫌われたらどうしよう」とか「ほかの人の仕事の手を止めさせてしまったらまずいな」と不安を感じたときに浮かぶ考えや思考を絶対的に正しいと信じていると行動の選択肢が制限されてしまうのだ。 そうすると仕事の生産性も下がり、さらに余裕がなくなり負のスパイラルから抜け出すことができなくなる。長時間労働から抜け出せないときはまさにこの状態だ。必ずしも正しくない考えに縛られ自分の行動を変えられず、その結果いつまでたっても働き方を変えられない。
■不安を感じたときに生じる思考や感情を疑う習慣をもつ
ならば、どうしたらいいのか。それは不安を感じたときに生じる自分の思考や感情を疑う習慣をもつことだ。そう、アランが私に教えてくれたように「不安がなければどう考える?」と自分に聞いてみればよい。 先日もセミナーの受講生から「社内の偉い人にメールする必要があったのだが不安になってかなり表現に気を使ったり、内容を精査したりして随分と時間をかけてしまった。今思えばあそこまでやる必要はなかったと思う」という話があった。 送った相手から「こんな内容ではわからん!」と叱責される心配が浮かんだという。「偉い人へのメールは丁寧に打たないと注意される」という考えは、未だに私でさえ頭をよぎることはある。これ自体は自然なことだ。 大切なのは「不安がなければどうするか?」と自分に問いかけてみることだ。そうすると、メールの書き方が「叱られない丁寧な文章」という視点から「用件を明確に伝える」という視点に変わるはずだ。その結果「いつも通りのメールの書き方で問題ない」という答えが自分に返ってくるだろう。 冷静に考えればあたり前だ。普段から「君のメールは意味がわからない」と言われているなら別として(その場合は違う練習が必要だ)、そうでなければ用件を相手に伝えることに緊張はいらない。 では君が上司の立場で、受信する側だったらどうだろうか。文章が丁寧すぎて長いメールを見たら「時間がもったいない。もっと簡単に報告してくれ」と思うのではないだろうか。こうして考えてみると「偉い人へのメールは丁寧に打たなければ…」というのは、必ずしも正しくないことがわかるだろう。