日銀の独立性は、どこへ行ったか……植田総裁の「仰天発言」で異常な円安に、その裏で岸田首相が犯していた「重大問題」
無法状態で行なわれる財政・金融政策
実は、重要な規定が忘れ去られているのは、これに限ったことではない。2013年からの異次元金融緩和は、財政法第5条に抵触している可能性があるのだ。 異次元金融緩和の基本的な手段は、国債の大量購入だ(2016年から、金利の直接コントロールが行なわれるようになったが、金利抑圧のための手段は、国債の購入だ)。 ところが、財政法第5条は、日銀引き受けによる国債発行を禁止している(国債の市中消化の原則)。この規定は、市場メカニズムによって国債発行に歯止めを掛けるためのものだ。 日銀が政府から直接に国債を引き受ければ、市中金利に影響を与えることなく、政府はいくらでも国債を発行することができる。しかし、市中消化の発行に限れば、国債発行額が増えると発行利回りが上昇し、財政資金のコストが高まる。したがって、国債発行に自動的にブレーキがかかることになる。この規定も、戦時国債大量発行の苦い経験から、無制限の国債発行を食い止めるために置かれたものだ。 異次元金融緩和においては、日銀は市中銀行が保有している国債を購入した。政府から直接に引き受けるわけではないので、形式的に言えば、財政法第5条には抵触していない。 しかし、日銀が民間金融機関から国債を入れれば、国債の流通価格が上昇する。つまり金利が低下する。したがって、政府が発行する新発国債の発行利回りも低下する。だから、日銀が直接に引き受けた場合と似た効果が得られるのである。 こうした問題があることは予想されており、日銀が購入する場合、民間の金融機関が国債を入れてから一定期間以上経った国債のみを日銀が購入できることとされていた。しかし、この制約が緩和され、民間金融機関が購入した直後に日銀が購入することも可能になった。つまり、右から左に転売できるようになったわけだ。そうであれば、国債購入後に金利が高騰して保有国債の価値が下落する危険を最小限に抑えることができるので、金融機関は、いくらでも国債を買える。そして、それを日銀に売却する。以上のことを簡単に言えば、大規模金融緩和は、事実上、財政法第5条の脱法行為になっているのだ。 重要な規定の侵犯は、さらに進んだ。2023年度当初予算案においては、建設国債を防衛費の財源にした。これは、財政法第4条に抵触していると考えられる。なぜなら、同条は、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と規定し、ただし書きにおいて、「公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」としているからだ。 日銀独立性の規定も、国債市中消化の規定も、そして建設国債の原則も、戦時財政金融の苦い経験から置かれた重要な規定である。それらが、いまやすっかり忘れ去られている。そしてマスメディアもこれが問題だと指摘しない。 日本の財政金融政策は、無法状態の中で行われていると言わざるをえない。 ・・・・・ 【さらに詳しく】『今や歴史的な円安~ビッグマックやBIS実質実効レートで見てわかった…! 円の購買力が1ドル360円時代を下回る「危機的」な状況』
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)
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