日銀の独立性は、どこへ行ったか……植田総裁の「仰天発言」で異常な円安に、その裏で岸田首相が犯していた「重大問題」
岸田首相が植田総裁の発言を訂正させた
ところで、問題は、以上にとどまらない。ある意味でもっと重要な事件が、この後に起きた。 円売りに歯止めがかからなくなった事態に危機感をもった岸田文雄首相は、植田総裁に面会して発言を修正させたのである(日本経済新聞、2024年6月3日)。その後、植田氏は一転。過度な円安には利上げで対応する可能性を示唆するなど、発言を修正した。 私は、4月26日の植田総裁の発言は不用意なものであり、総理大臣がこれを問題視したのは正しいと思う。しかし、このことと、直接に面会して発言を修正させることが適切かどうかは、別問題だ。なぜなら、この行為は、中央銀行の独立性を侵害するものと考えられるからだ。日銀法第3条第1項は、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」としている。 戦時中の1940年に制定された旧日銀法でこれに対応する条文は、「日本銀行ハ専ラ国家目的ノ達成ヲ使命トシテ 運営セラルベシ」だった(第2条)。この条文があるために、日本銀行は戦費調達のために大量の国債を引き受けてきたのである。現在の日銀法は、これに対する反省から上記の規定を置いた。つまり、この規定は、日本銀行の本質に関わる規定と言ってよいものなのだ。 岸田首相の修正要求は、この規程に抵触する大問題として論議されるべきだろう。
日銀の独立性はとっくに忘れられている
以上のように言えば、「2012年に、日銀の反対にもかかわらず、政府が日銀に2%の物価目標を導入させたことこそ、日銀の独立性に対する重大な侵犯だった」との指摘があるだろう。その通りである。 ただし、2012年当時には、これが日銀の独立性にかかわる重大問題であることが明確に意識されていた。そして白川総裁(当時)は、最後の最後まで抵抗した。そしてついに 刀折れ矢尽きて、政治の圧力を受け入れたのである。 ところが、今回は発言を修正させた側も、それを受け入れて発言を修正した側も、日銀法第3条第1項の規定を、すっかり忘れてしまったように見える。マスメディアからも、この事態に対して何の疑問の声もあがらない。 つまり、日銀の独立性という言葉は、すでに死語になっていて、誰からも忘れられた存在になっているのである。本稿のようなことを言いだせば、「些細な問題について何と大げさな」と言われるだろう。問題とすべきは、まさにこの点だ。
【関連記事】
- 【続きを読む!】今や歴史的な円安~ビッグマックやBIS実質実効レートで見てわかった円の購買力が1ドル360円時代を下回る「危機的」な状況
- 円安「1ドル160円」攻防のウラで「岸田と植田の大バトル」が勃発…!いよいよ高まる「円ショック&超インフレ」への警戒感
- 植田総裁「利上げ見送り」で円安止まらず…!「不動産ローン急上昇」と「円一段安」のさらなる懸念が浮上する「深刻なウラ事情」
- 【スクープ】岸田首相が「日銀総裁を叱った」…!? 円安を加速させる「いいカモ」植田総裁の失言に、政権も財務省も「なんとかならんか」と大激怒
- 異次元円安に「財務省の宇宙人」が「一撃必殺」8兆円介入に踏み切ったワケ…ルーツは21年前の歴史的「円売り」だった