【欧州CL決勝分析コラム】レアル・マドリードは“憎たらしい”。中途半端な前半から、どのように優勝を掴んだのか
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝、ボルシア・ドルトムント対レアル・マドリードが現地時間1日に行われ、0-2でマドリーが勝利。2シーズンぶり15度目の栄冠に輝いた。しかし、内容的には完勝とは言えず、特に前半は一方的に攻められ続けていた。この難しい局面をどのように打破して、勝利を掴み取ったのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】レアル・マドリードが優勝!CL決勝ハイライト
●レアル・マドリードが2季ぶり15度目の栄冠に輝く これぞ“マドリディスモ”“という勝負強さだった。 2023/24シーズンの欧州サッカーを締めくくる一戦となったUEFAチャンピオンズリーグ決勝。この大一番でレアル・マドリードがドルトムントを2-0で下し、2シーズンぶりに欧州王者の座に返り咲いた。 15度目の優勝を飾ったレアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は試合後のインタビューで「前半は苦しんだ」と、決して簡単な勝利ではなかったと振り返っている。 前半にどちらのチームが攻勢だったのかはゴール期待値を振り返ると明らかで、ドルトムントの「1.82」に対してレアル・マドリードは「0.08」に終わっていた。シュート数も8(枠内2)対2(枠内0)と大きな差が生まれている。 レアル・マドリードはこの劣勢な状況をどのように打破して、15度目のビッグイヤーを掲げるに至ったのだろうか。 ●レアル・マドリードが前半に苦しんだ理由 前半のレアル・マドリードを一言で表すと「中途半端」だった。 被保持の局面では前からのプレスが緩かったことから配球能力の高いドルトムントの両CBから良質なフィードや縦パスが供給され、特にニコ・シュロッターベックからのサイドチェンジはレアル・マドリード側からするとかなり厄介だった。 その中で最終ラインの設定が高かったことから簡単に裏抜けを許し、ボールホルダーにプレッシャーがかかっていないことから精度の高い1本のパスで決定機を作られた。特に21分のカリム・アデイェミの裏への抜け出しからGKティボー・クルトワと1対1を迎えたシーンは、ベルギー代表GKの圧力がなければゴールを決められてもおかしくなかった。 逆に保持の局面ではドルトムントの両CBが前に潰す意識が強かったため、中央のジュード・ベリンガムやロドリゴにパスをつけてもなかなかボールを収められないというシーンが散見された。その結果、リスクを避けて外循環が多くなってしまい、チャンスらしいチャンスが作れないまま前半を終えていた。 ハッキリ言って前半を終えた時点でレアル・マドリード側からは決勝戦のような緊張感が感じられなかったが、後半にアンチェロッティ監督の手腕が発揮される。 ●カルロ・アンチェロッティ監督の見事な修正力 後半にかけてのアンチェロッティ監督の修正力は見事だった。 前半と後半の最大の違いは被保持の局面での意識の差だ。中途半端に前に出て行った前半に対して、後半は[4-5-1]もしくは[4-4-2]のセットで構え、後ろ重心にすることで、前半に有効だったドルトムントのカウンターの機会を減らしていた。 それはボール保持率を見れば明らかで、前半にレアル・マドリードは64%ボールを握っていたが、後半は49%に下がっている。チームとして不用意なロストを減らし、あえて相手にボールを持たせることで、脅威となっていた縦に速い攻撃の回数を減らしたのだ。 その中でもいくつかドルトムントのカウンターのチャンスが生まれそうだったが、フェデリコ・バルベルデとエドゥアルド・カマヴィンガの両選手が試合終了のホイッスルが鳴るまで高い強度を維持し、怒涛のカウンタープレスで封じていた。試合を通してヴィニシウス・ジュニオールしか警告を受けなかったのが、最後まで高い強度を維持できた理由だろう。 逆にドルトムントは両CBと中盤で強度を出せるマルセル・ザビッツァーが警告を受けてしまったことで、試合終盤にかけて前半ほどの圧力を掛けられなくなっていた。特にシュロッターベックが貰った40分のイエローカードは抗議によるもので、これは勿体なかった。 粘り強く守ってからヴィニシウスやロドリゴらキャリー能力のある選手を活かす形にチームとしての目線が揃ってからは、徐々にペースがアンチェロッティ監督のチームへと流れる。 押し込むフェーズが増えたことで、フリーキックやコーナーキックからチャンスを得ると74分にトニ・クロースのコーナーキックからのクロスをニアでダニエル・カルバハルが合わせて先制に成功する。この形は後半開始直後の49分にも見られており、フィーリングが合ってきた中で生まれた先制ゴールだった。 そして83分にイアン・マートセンの横パスのミスを奪うと、最後はヴィニシウスが1対1を決めきって勝負あり。このゴールで勝利を決定づけ、見事2シーズンぶり15度目の優勝を飾った。 相手の良さを消した上で粘り強く守り、最後はセットプレーとミスを逃さずに訪れた決定機を確実に決めきる。今回の決勝はクリスティアーノ・ロナウドやガレス・ベイルが在籍していた頃のような派手ゴラッソが決まる一戦ではなかったが、憎たらしいほどの試合巧者ぶりで自分たちに“優勝“の2文字を手繰り寄せた。 (文:安洋一郎) 【了】
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