清少納言が描く「明け方に帰る男性」の“理想の姿”と“残念すぎる現実”。平安時代の恋愛模様が垣間見える
今年の大河ドラマ『光る君へ』は、紫式部が主人公。主役を吉高由里子さんが務めています。今回は清少納言が語る平安時代の理想の男性像と、現実の姿を解説します。 著者フォローをすると、連載の新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます。 【写真】伏見稲荷大社も清少納言ゆかりの地。写真は伏見稲荷大社 ■平安時代の理想的な男性像 随筆『枕草子』の著者・清少納言はこう語ります。「明け方、女性のもとから帰る男性は、服装を整えたり、烏帽子のひもを元結に固く結び付けたりしなくてもよいのではないか」と。
この発言は、少し意外です。清少納言ならば「身だしなみを整えて帰るのが美しい」とでも言うのではないかと想像していたからです。でも、そうではなかった。とてもだらしなく、服装が乱れていたとしても、それを見て、誰が笑ったり非難したりするのかと。どうやら清少納言は寛容なようです。 清少納言は「男はやはり、明け方、女性のもとから帰っていく姿が、もっとも風情がある」とも言います。 「もう明るくなってしまったわ。世間体が悪いわね」と女性から言われた男性は、ため息をつきます。清少納言はそんな姿に対してこう考えます。女性からすれば、男性が心の底から立ち去りたくなく、場合によっては帰るのが億劫に見えると。
男性は座ったまま指貫をはこうとせず、女性のほうに身を寄せて、昨晩の甘い言葉の続きを耳元でささやきます。そして、男性はいつの間にか帯などを結んで、格子を押し上げ、女性を妻戸口(出入り口)まで連れていくのです。「昼間に会えないときに、どんなに気がかりなことか」。男性はこう別れの言葉を伝えます。そうして、そっと邸を出ていくのです。 このような男性の態度だったら、女性も嫌な気分にはならず、うっとりとしながら男性の後姿を見送ることができる。「風情が格別だろう」と清少納言は記しています。
清少納言自身もこのシーンを執筆しながら、うっとりしていたかもしれません。しかし、清少納言が書き記したような態度を取る男性は少数派。たいていは、かっこよくスッと帰っていく男性たちではない、と清少納言は語ります。 何か突然、思い出したとでもいうように、さっと起き上がり、バタバタしながら、指貫の腰ひもを締める。着衣の袖を几帳面にたくし上げ、帯を固く結ぶ。そしてその場に座り、烏帽子の緒をキュッときつそうに結んで、烏帽子を被り直すのです。