<斎藤幸平>近い将来、何を食べるかもChat GPTが決める時代がやってくる!? 〈コモン〉と〈自治〉が危機の時代を生き抜くためのカギになる理由
昨今は、スマホに表示される商品のレビューやGoogle Mapの指示に従って行動している人も多いだろう。もうあと数年もすれば、何を食べるか、休日に何をするかといったことまでChat GPTに決めてもらう日が来るかもしれない。このように自分では何も決めることのできない他律的な存在になりつつある私たちが、「自治」の力を磨くにはどうすればよいのだろうか。 【関連書籍】『コモンの「自治」論』
今、なぜ〈コモン〉の「自治」なのか?
戦争、インフレ、気候危機など、さまざまな困難が折り重なって、一筋縄では何も解決しない危機の時代に突入している。その事実には、誰もが気づいているはずだ。多くの要因が絡み合ったこの複雑な危機を、魔法のように一気に解決することはできない。 それでも、いや、だからこそ、〈コモン〉の再生とその共同管理を通して「自治」の力を育てていかねばならない。これが、『コモンの「自治」論』というタイトルに込めた決意である。 では、〈コモン〉とは、そもそも何だろうか。日本語では〈共〉とも訳される概念で、誰かや企業が独占するのではない「共有物」という意味だ。ひとまずは宇沢弘文氏の「社会的共通資本」を思い浮かべてもいいだろう。 たとえば、村落全体で共同管理されてきた入会地や河川水などは〈コモン〉の典型だ。ところが、資本主義が浸透するにつれ、こうした共有資源は私有化されていく。それどころか、今やあらゆる〈コモン〉が解体されようとしているのだ。 公営事業である水道も民営化推進の動きがあり、大企業がそこに利益獲得の活路を見出そうとしている。公園などの公共の場を、市民の議論を排除しながら、商業施設に変えてしまおうという大資本の動きも〈コモン〉解体の一例だろう。 資本は〈コモン〉であったものを独占することで容易に利潤を手にしていくのだ。これを「略奪による蓄積」と地理学者デヴィッド・ハーヴェイは批判する。 そうした資本による略奪に抵抗して行う〈コモン〉の再生とは、他者と協働しながら、市場の競争や独占に抗い、商品や貨幣とは違う論理で動く空間を取り戻していくことだ。『コモンの「自治」論』でも触れられている、水やエネルギーや食、教育や医療、あるいは科学など、あらゆる人々が生きていくのに必要とするものは、〈コモン〉として扱われ、共有財として多くの人が積極的に関与しながら管理されるべきものなのだ。 では、なぜ、その〈コモン〉と「自治」が危機の時代を生き抜くためのカギになるのか。その理由は私たちの時代の背景について理解することで浮かび上がってくる。
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