土砂と濁流、逃げ場失う 奥能登豪雨 不明の中山さん、脱輪直そうと車外へ
9月21日の奥能登豪雨で行方不明となっている輪島市町野町の中山美紀さん(32)が、同日正午すぎ、軽自動車で帰宅する途中に、脱輪した車を元に戻そうと外に出て、川の濁流にのまれたことが家族への取材で分かった。土砂崩れに道を阻まれ、Uターンしたところで溝にはまり、逃げ場を失った中山さん。父勇人(はやと)さん(62)は「車の中にいてくれれば無事だったかもしれない。必死で帰ろうとしたんやろう」と悔しさをあらわにした。 【写真】路上で見つかった中山美紀さんの軽自動車=9月24日 美紀さんの軽自動車のドライブレコーダーに当時の様子が記録されていた。映像を確認した勇人さんによると、美紀さんは9月21日正午ごろ、穴水町の職場から自宅に戻るため能登町鈴ケ嶺を走っていた。 ●Uターン後、溝に 土砂崩れで道がふさがれていたため、美紀さんは元来た道へ引き返した。しかし、道路横を流れる久田川が氾濫しており、Uターンしてから6分後、濁流の影響で車両右側の前後輪が溝にはまったとみられる。 「美紀は何度もアクセルを踏み込んでは流れに押し戻されていた」と勇人さん。「引き返すこともできず、怖かったと思う」と当時の娘の心境に思いを巡らせた。 運転席のすぐ右側は斜面だった。脱輪して車体が傾いていた影響もあり、美紀さんは助手席側から脱出。はまったタイヤを元に戻そうと車の後部を持ち上げようとしたり、足を滑らせたりする美紀さんの姿を車載カメラが捉えていた。 9月24日に発見された美紀さんの軽自動車は、運転席側が水につかった一方、助手席はぬれていなかった。勇人さんは「車内にいればこんなことにならなかったかもしれないが、どんどん水が襲い掛かってきて何とか逃げようとしたんやろう」と話した。 美紀さんが家族で暮らしていた町野町の実家は元日の地震で全壊。その後は家族6人で仮設住宅に身を寄せたが、今月17日に迎えた32回目の誕生日を一家で祝うことはできなかった。 「美紀はおじいちゃん子で、自分の誕生日になると、いつも祖父のためにケーキを買ってきた」と勇人さん。「一日も早く見つかってほしい」。最愛の娘との再会をただひたすらに願っている。