日本は生物多様性が危うい場所? 私たちにできることは【5月22日は国際生物多様性の日】
Q5. 生物多様性が失われたら、どんな未来が待っている?
ここで、さらに驚きの事実。実は私たちは、生物多様性が失われた先になにが待っているのが、まだわかっていない。もっと具体的にいうと、地球上に何種の生き物が存在するのかすら、把握できていない。哺乳類や鳥類など、大きい動物の種類は把握できているといわれているが、昆虫や線虫、細菌はどうか? これらは全部で何種いるのか、科学者によっては、200万種、または3,000万種という人もいるなど、ばらばら。地球上の生き物の母数がわかっていないので、現在、どれくらいの規模で生物多様性が失われているか、そして、それが私たちの今後の暮らしにどのような影響をおよぼすのか、正確な全体像は見えていない。 そこで私たちにヒントをくれるのが、モアイの石像で有名なイースター島のお話。いまはほとんど木が生えていないイースター島の大地にも、昔はヤシの木などのたくさんの植物が育っていたそう。ところが、島に住む人口が増えるにつれて、人々の暖房や調理用の燃料、生活用具、小屋、漁などに木々が伐採されつづけ、ほぼすべての森林を失い、生き物も激減。さらに、植物も育たなくなってしまったその土地では、人々のあいだで食料をめぐる争いがおこった。争いはつづき、人口も減りつづけ、結局、その島の文明は崩壊してしまったのだという。 この悲劇は、ほかの生き物や自然との調和を無視して、人間が行動した結果、どんな未来が待ち受けているのか教えてくれる。私たちは、遠いご先祖さまが残してくれたこの教訓から学んで、同じ悲劇を生まないことができるはず。イースター島を、地球の未来の姿にしないために。
Q6. 私たちに未来を変えることはできる?
もちろん、できる。今日からとれるアクションを知って、行動に移そう! まずは、自分の身の回りのもののルーツを知ろうとすることや、想像力を大事にしよう。たとえば、カップ麺、お菓子、パンなどの加工食品や、化粧品、洗剤、医薬品などには、パーム油が使われている。この油を生産するために、インドネシアでは森林伐採が行われ、オランウータンやトラなどの動物のすみかが奪われているのを知っているだろうか? このように、私たちが普段、手にしているものが、知らないうちに大好きな生き物や植物に害をあたえているとしたら、それは悲しいこと。この紙はどうやって作られているの? この木はどこから来たの? この魚はどこで育っているの? 身近なものから興味を持って、調べてみよう。 日々のお買い物でできることも紹介! スーパーなどに行ったら、以下の認証マークのついた製品がないかチェックしてみよう。これらのマークは、それぞれの自然資源の持続可能な利用に取り組み、野生生物の暮らしを守ったり、ほかの生態系への影響に配慮して収穫していることを示すものだ。一人ひとりがこうした製品を選び、そのニーズが広まっていけば、販売している企業や生産者なども変わってくる。すべての生き物の豊かさを守る行動につながっていく。私たちのアクションには、それだけのパワーがあるのだ。 ・森を守るマーク 森林認証制度FSC ・RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証 ・海を守るマーク(1) 天然水産物の認証制度 MSC ・海を守るマーク(2) 養殖水産物の認証制度ASC 生物多様性とは、すべての生命の生活を支える、かけがえのないもの。私たちが生物多様性に関心を持つことは、私たち人間のためだけではなく、大好きな動物の暮らし、癒しをくれる植物など、地球に生きるすべての生き物の豊かさを守るために、必要なはじめの一歩だ。そして、地球上のさまざまな生命や環境が調和しているとは、どんな状態なのか、一歩一歩理解を深めながら、私たちはきっと気づくはず。地球は人間だけのものじゃないということを。
お話を聞いたのは生物多様性専門家 籠島彰宏さん
<プロフィール> WWFジャパン自然保護室生物多様性政策グループ。大学・大学院で分子生物学を学んだ後、官公庁勤務。その後フランスでの国際機関勤務を経て、2023年12月より現職。生物多様性の保全に関する国内外の政策提言活動を通して、生物多様性の社会的プレセンスの向上、およびネイチャーポジティブの実現を目指す。神奈川県横浜市出身。