記憶喪失「ピアノマン」の知られざる近況 地元の人間誰もが口を閉ざす理由とは
街ぐるみで記憶にふたを?
しかし、「その代わりに」とばかりに彼の口から語られたのは、この件に関する村人たちの“トラウマ”だった。その内容は大要、次のようなものだったという。 〈ピアノマンの現在を誰も知らないわけじゃないんだ。でも、当時はこの静かな農村に世界中から数百人の報道陣が殺到して大騒動に発展した。 こんな小さな村だからホテルはあっという間に満杯になる。それで、牧草地にマスコミ各社がテントを張りバーベキューや飯盒炊爨(はんごうすいさん)などを始める始末。普段、真面目な報道機関として知られるドイツの日刊紙や週刊誌までもが、恥も外聞もかなぐり捨てて、競い合うようにグラッスルさん一家を追いかけまわしたんだ。 ピアノマンの父親は地元の消防団のメンバーでもあり、村では尊敬される人物。そんな一家がホラーさながらの散々な目に遭った。あんなことはもう懲り懲りで、誰もあの悪夢を思い出したくないのさ〉 坂井氏が言う。 「『居場所も消息も不明』だと言いながら、『間違いなく健在だ』と明言する。さらにこの記者は後日、『どうして19年も前の話を今さら聞いてまわるのか』と探るように私に尋ねてきたのです。ひょっとしたら、街ぐるみでピアノマン騒動の記憶にふたをしようとしているのでは、と思いました」 ピアノマンのように、村人もいずれは口を開いてくれないものか。 「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載
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