本郷和人『光る君へ』道兼ら登場人物が続々と「疫病」で倒れたが…疫病流行の際、当時の朝廷はどんな対応をしていた?
大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第21話は「旅立ち」。突然、髪を下ろした藤原定子(高畑充希さん)。そのことは内裏に広まり、一条天皇(塩野瑛久さん)もショックを受けるが――といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「疫病対策」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし! 竜星涼さん演じる藤原隆家はのちに日本を守った英雄に…あの道長が苦手とした<闘う貴族>隆家とは何者か * * * * * * * ◆平安時代の疫病対策とは ドラマ内で長く猛威をふるってきた疫病。 関白となった道兼はもちろん、まひろも感染。ナレーションによれば「道長と伊周を除く権代納言以上の公卿が疫病になって死に絶えた」と、かなり大変な状況になっていました。 道長も、疫病で苦しむ民のために租税免除を天皇に進言するなどしていましたが(まひろは「租税免除は高貴な者から下々への施しにすぎない」と批判していました)、この先どうなるか予断を許しません。 一方、現実として疫病のような変事が起きたとき、当時の朝廷はどう対応していたのでしょうか? 今回はそれを考えてみたいと思います。
◆「法会」で解決を願った 答えを記せば、基本的にはお坊さんを呼んできて、お経を唱えさせていました。 お経を唱える儀式を「法会」といいます。 朝廷は年中行事として、日にちを定めて各種の法会を執り行っていました。 それに加えて火山の噴火・日照り・河川の氾濫などの天災があったとき、兵乱が起きたとき等々、何しろ困った事態が生起すると、解決を願って、臨時の法会を催していたのです。
◆疫病対策として唱えられたものとは お経を唱えて何の役に立つのか、という疑問は、あくまで現代の私たちのもの。当時はそれが何よりの解決策だったのです。 疫病がはやったときも、法会が行われました。 疫病対策で唱えられたのは主に仁王経で、法会の名は仁王会といいました。 この経典は仏教における国王のあり方について書かれたもので、お寺の門のところで睨みをきかせる一対の仁王さまについて述べた経典ではありません。 仏になるための修業を波羅蜜といいますが、波羅蜜の最終段階である般若波羅蜜をしっかりと認識し、受け止めることで、災難を滅除し国家が安泰になると仁王経は解説しています。ですから、このお経を読むことで、大いなる災難である疫病を克服しようというのでしょうね。
◆牛頭天王信仰 疫病を鎮める神さま仏さまとしては、感神院祇園社(現八坂神社)に祭られた牛頭天王が信仰されました。 天王は薬師如来の化身であり、日本のスサノオ神でもあります。平安時代にさかんに信仰されるようになり、信仰の効果としては、夏に流行しがちな疫病を鎮めてくれる、とされました。 牛頭天王の物語は平安、鎌倉、室町と、時代とともに物語性豊かに作られていった模様です。 ドラマとは直接の関係を持たないので省きますが、蘇民将来とか茅の輪くぐりとか、現代の神事と密接な関係が後に創作されていますので、興味を持たれたら調べてみて下さいね。
本郷和人
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