トランプ再登板で早くも始まった「世界の大転換」…EUが「ロシア産」天然ガスから「米国産」に乗り換え、中国資本の企業にも「脱中国」の動きが!
インドにとって「far far better」
ところで米大統領選挙において、カマラ・ハリスはインド系だということから、インドとしてはトランプよりもハリスを歓迎していると思っていた人もいたのではないかと思う。しかしながら、米ハドソン研究所研究員の長尾賢研究員は、インドの有識者の中には、トランプ氏の方が「far far better(はるかに、はるかに、いい)」とはっきり述べる有識者が少なくなかった、ハリス氏よりもはるかに、トランプ氏が人気を集めていたように見えたと、ウェッジオンラインの記事で語っている。 なぜトランプ氏の方がはるかにいいとされたのか。長尾研究員は記事の中で2つのことを挙げている。 その一つはバイデン政権が弱いと見られたことだ。 アフガニスタンからの米軍の無様な撤退ぶりを覚えている方は多いだろう。計画性を全く感じさせない米軍の撤退劇の中で、アフガニスタンのカブール空港には、タリバンから逃れるために多くの人が殺到した。そうした人たちを狙う自爆テロが2件発生し、アフガニスタン人170人、米兵13人が亡くなった。機内に乗り込めないのに、必死で飛行機にしがみつき、空中から落下する人も数多く出るという悲劇も招いた。 ロシアがウクライナに侵攻する前の段階でのバイデン大統領の発言も忘れられない。仮にロシアが侵攻しても、ウクライナには米軍もNATO軍も派遣しないとバイデンは繰り返し述べ、ロシアのウクライナ侵攻を事実上容認した。 こうしてやすやすとロシアに軍事侵攻されたウクライナの悲劇は今さら言うまでもない。そんなウクライナがロシアを攻撃できる兵器を求めても、ロシアを刺激すると核戦争になるかもしれないからと言って、バイデン政権は供与する武器に大きな制限を加え続けてきた。力で持って秩序を踏みにじる勢力に対して、バイデン政権はあまりにも非力だったと言わざるをえないのだ。
米中の狭間で方向転換が増えるか
そうでありながら、小言ばかりが多かったことを、長尾研究員はもう1つの要素として指摘している。 インドについて言えば、例えばモディ首相が訪米した際に、モディ首相が好まない記者会見をバイデン政権は要求して行わせた。その結果、記者会見の場で記者たちからインドの民主主義のあり方に対する厳しい批判にモディ首相はさらされた。当然モディ首相の心のうちは穏やかではなかっただろう。 ではインドの民主主義は全く民主主義と呼ぶべきではないほどひどいものなのだろうか。そうではあるまい。 今年行われたインドの総選挙では、事前予想に反して与党がかなり議席を減らすことになったことを覚えている人も多いだろう。そのことはインドでは政権の意向で議席が決まるわけではないこと、つまりインドで民主主義が機能していることを明白に示すものだったのではないか。 インドの民主主義がまだ課題が多く残されているとしても、中国やロシアのような権威主義国家とは明確に一線を画している。それなのに、あたかもインドが中国やロシアと大差ない国であるかのように、バイデン政権は扱ったのだ。 その一方で、ロシアなどが実際に武力を使って脅してくることに対しては、弱腰姿勢を示してきた。 普段は口うるさいくせに、いざという時には腰が引けるあり方で、信用されることがあるだろうか。まさにバイデン政権はそんな感じで、ハリスが大統領になってもその路線を引き継ぐことが見えていた。 ところがトランプはこういう点では真逆で、普段はそれぞれの国のあり方に口出しをしないで付き合いつつ、いざという時には頼りになる存在である。2017年に大統領に就任して最初に訪問したのが王政のサウジアラビアで、アジアで最も早く訪問したのが、社会主義国のベトナムだった。 他国を武力攻撃するような真似をしないのであれば、政治体制など気にせずに付き合っていく姿勢を、トランプは第一次政権の時から示してきた。そのうえで、強い力を見せることでしか平和を保ちえない現実を踏まえた動きを、トランプは展開してきた。 こうしたトランプ政権のあり方がより明瞭に見えてくる中で、また習近平体制のもとでますます中国がおかしくなっていく中で、今まで米中の狭間で態度を決めかねていた国々が、さらなる路線変更に動いていくのは必然だろう。 新しい時代が始まりつつある。
朝香 豊(経済評論家)