「イチゴ戦国時代」到来、世界の半分は日本がルーツ!?王国が考えるヒットの条件とは 各地で次々に生まれる新品種、開発者は権利保護のため無断栽培を警戒
2021年4月の種苗法改正で、農作物の新品種は海外への持ち出しが制限されるようになったが、シャインマスカットは16年ごろ無断で持ち出され、中国で栽培が急拡大。栽培面積は日本の約30倍に上るという。中国の生産者が正規に種苗を入手した場合、種苗法で新品種の開発者に与えられた知的財産権に基づき、日本は年間100億円以上の利用料を受け取れる計算だが、みすみす逃している。 滋賀県はみおしずくが将来、シャインマスカットのようにならぬよう警戒し、県内の栽培農家に対して苗の県外持ち出しなどを禁じている。当然ながら品種登録も出願中。山崎主査によると、登録までの期間に無断で増殖されたり、海外に持ち出されたりしても登録後、相当額の補償金が請求できるという。 ▽王国で進む主役交代 1968年から半世紀以上、収穫量日本一を記録し、「いちご王国」を打ち出す栃木県。県農政部生産振興課の人見秀康課長補佐によると「かつて栃木で農業といえば水稲だった。しかし、米を収穫した後、冬から春にかけて作物を育てて農家の経営を発展させようと広まったのがイチゴ栽培だった」という。 県が開発した「女峰」に次ぎ「とちおとめ」が全国的な知名度を獲得し、東日本を中心に各地で生産される主力品種となった。今は県農業総合研究センターいちご研究所が2018年に開発した「とちあいか」を売り出し中だ。現在は県内だけで栽培が認められている。とちあいかは27年には県内での作付面積を全体の8割にまで拡大する計画。既にとちあいかの作付面積はとちおとめを上回り、王国の主役が交代しつつある。
とちあいか開発の背景には、王国とはいえ安穏としていられない事情があった。栃木県でもイチゴの収穫量、作付面積が減少傾向なのだ。そんな中、ヒットした品種を大々的に新品種に置き換える―。かなり大胆な戦略だと思われるが、育種を担ういちご研究所の畠山昭嗣特別研究員は「より良い品種を目指したい。生産者にメリットのある品種ができて、たくさん作ってもらえれば、消費者も安心して買ってもらえ、ウィンウィンになる」と話す。 開発に7年かけた結果、葉が黄色く縮む萎黄病に強く、とちおとめより大粒で甘みがあり、単位面積当たり約1・3倍の収穫量がある品種が誕生。表面が硬めで傷みにくく、長距離輸送にも耐えるため輸出にも向く。実の大きさや形がそろいやすいため、農家にとってはパッキングしやすく、縦に切った時に、断面がきれいなハート形になるのが消費者に受けている。 畠山研究員によると、一般的にとちあいかは、とちおとめに比べて約1カ月早い10月中旬ごろに出荷が可能なことも大きな特徴。早い時期は単価が高く増収につながり、農家の支持を集めているという。