【ラグビー】まったく違う自分を見せる。尾﨑泰雅[東京サンゴリアス/CTB]
東京サンゴリアスで3年目の尾﨑泰雅が、初の開幕スタメンを勝ち取った。 13番で先発する。 昨季のプレーオフ準決勝で敗れた、クボタスピアーズ船橋・東京ベイが相手だ。尾﨑はその試合に、リザーブから途中出場していた。 「負けた悔しさがずっと残ってます。その悔しさを開幕戦でぶつけたい」 アウトサイドCTBとして、持ち味のアタックだけでなく、「ディフェンスでも体を張りたい」と話す。 「フィジカルが強い相手だけど、しつこくいきます」 コンタクト局面でも引かない自信が、今季の尾﨑にはある。成長を実感できたのは、プレーシーズンマッチのブランビーズ戦(10月7日)だ。 「ニュージーランドに留学していたこともあって、フィジカルの強い外国人選手とぶつかることに慣れていました。ディフェンスで体を当てられるようになって、ブレイクダウンでは相手よりも速く強く入れるようになったと思います」 昨シーズンが終わってからほどなくして、NZのオークランドに渡った。3か月の滞在は刺激的だった。 「どの選手もフィジカルが強くて、まずは1対1のコンタクトで勝負してくる。僕はサイズも小さい方ですし、その中でどうディフェンスするか、どうタックルに入れば相手を倒せるかを学べました」 意外にも、海外遠征は初めてだった。 「代表歴はひとつもないですし、外国人選手とやる機会は少なかった。一度は経験してみたかったんです」 京都工学院出身。大学は帝京に進み、2年前の4月にサントリーに入社した。今年9月には、かねてより希望していたプロ選手にもなれた。 しかし、強豪チームを渡り歩いたここまでの道のりで、一度もカテゴリー別、地域別の代表に選ばれたことがなかったという。 「高校代表とかU20はもちろん、近畿選抜(コベルコカップ)もオール京都(国体)もないです。だから、代表の選手よりもすごいプレーをしたる、といつも思っていました」 どうして選ばれなかったかは分からない。けれど、思い当たる節もあった。 「ちゃらんぽらんでした」 ラグビーに対する熱量も足りなかったと認める。なにせ大学まではラグビーよりもバスケの方が好きだったのだ。 小学生の時までは2つを並行していた。高いハンドリングスキルとオフロードパスは、バスケで培われた武器でもある。 それでも、中学からラグビー一本に絞った。 「バスケをやりたいとずっと言い続けていたけど、親の影響で…(笑)」 父の達博さんは首を縦には振らなかった。元ラグビーマン。いまはユニチカのGMを務める。 「いまは続けていて良かったと思うし、感謝しかない」と言えるのは、サンゴリアスに入ったことで転機を迎えたからだ。 試合に出られない日々が続いて決心する。 「ジャパン組が多い中で、自分が試合に出るために何をしなければいけないか、自分との違いは何かを考えました。ジャパン組は『どうしてこんなにラグビー好きなんやろ』って思うくらいラグビーに集中していた。まずはそういうところ(取り組む姿勢)からだなと」 いわゆる感覚派のプレーヤーだ。これまでほとんど試合や練習の映像を見てこなかったという。 しかし、映像を見始めてからラグビーの理解度がみるみる上がった。確実なプレーを選択できるようになった。 練習中は周りとのコミュニケーションを積極的に取るようにした。 「状況判断の声、どこにスペースが空いているかとかを伝えられるようになりました」 「楽しくなかった」という理由で避けてきたウエートにも注力してきた。 それを毎日続けて来れたから、「大学の時とはまったく違うし、去年と比べても遥か上にいけている」と言い切れる。 「普通であれば高校、大学で気づくべきことにようやく気づけた。恥ずかしいですけど、一回り成長できたと思います。まだまだですけど」 加入1年目は6試合(先発1)、2年目は12試合(先発3)と順調に試合機会を増やして迎える今季。SH、SO以外はどこでもできるユーティリティ性も強みとして持つなか、「(今季は)13番にフォーカスしてきた」。 昨季までサム・ケレビ(現・浦安DR)や中野将伍が務めてきた、競争力の高いポジションだ。 代表選手に挑む構図だが、本人は「気にしていない」。 「確かにショウゴさんとは経験の差もあるし、体の強さも違う。でもショウゴさんにはない、自分の強みで上回りたい。良いライバル関係でいられるように。それがチームの成長になるし、勝利に近づくと思っています」 W杯直前にケガを負った中野は、12月6日にメディアに公開された練習でも、別メニューで調整。「誰が出てもサントリーは強いというのを見せたい」と尾﨑は語気を強める。 ともに先発する3歳上の兄・晟也について聞くと、「めちゃくちゃ仲良いですよ」と表情を緩めた。 「昔は兄と比べられるのが嫌でしたけど、いまは気にしていません。いまは尾﨑泰雅という人間をどんどん出していきたい。兄とは全然違うというのを見せたい」 それを証明する舞台が、12月10日の、秩父宮ラグビー場だ。 (文:明石尚之)