カショギ氏殺害事件 サウジに兵器輸出続けた欧米との関係は?
「ディール」自賛のトランプ政権はどう動く?
EU加盟国の間では、以前からイエメン内戦で多くの民間人が命を落としていることが問題視され、サウジアラビアへの武器売却凍結を検討すべきとの声が出ていた。今年に入り、EUではサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE=サウジと共にイエメン内戦に介入している)への武器輸出にストップをかける動きが相次いでいる。1月にはベルギーのワロン地域政府が、サウジアラビアに対する武器輸出に制限を設けることを発表。輸出された武器はサウジアラビア国内のみでの使用に限定されるという条件で、それが破られた場合には輸出は即凍結されるというものだ。 EU加盟国ではないものの、ノルウェー政府も同月、UAEに対する武器輸出を一時停止すると発表している。ノルウェーはUAE向け武器輸出をその前から事実上停止していたが、「イエメン情勢を総合的に評価した結果、UAEへの武器輸出は適切ではない」という結論に至ったとの見解を示している。スペインでもレーザー誘導爆弾のサウジアラビアへの輸出を禁止する声が高まり、スペイン政府は爆弾の輸出を凍結する姿勢を明らかにしていたが、23日に議会が輸出凍結案を否決した。複数のスペインメディアは、レーザー誘導爆弾の輸出がストップした場合、サウジアラビアが総額2000億円以上となるスペイン製の軍艦購入を凍結する姿勢を見せたため、有権者や業界団体からの圧力を受けた国会議員達が否決に回ったのだという。
世界第4位の武器輸出国(ストックホルム国際平和研究所調べ)のドイツも、カショギ氏殺害のニュースを受けて、メルケル政権が大きく動いた。メルケル首相は21日、サウジアラビアへの武器輸出を当面凍結すると発表。カショギ氏殺害に関して、サウジアラビア政府にさらなる調査と説明を要求している。メルケル首相は同時にEU加盟国に対し、サウジアラビアへの武器輸出の凍結を呼びかけている。 ヨーロッパ各国は、メルケル首相の呼びかけもあり、サウジアラビアに対する武器輸出の凍結で足並みがそろい始めたが、アメリカはどう動くのか。トランプ政権は強い言葉で「カショギ殺害犯」を批判するものの、MBS皇太子の関与があったか否かについては、直接的な言及を避けている。また、殺害に関わった者が制裁の対象になると示唆したトランプ大統領だが、サウジと昨年交わした12兆円規模の武器輸出に関しては、ほとんど言及していない。 21日に米メディアの政治番組に出演した共和党の有力議員らは、サウジへの武器輸出凍結でアメリカはヨーロッパと同じ姿勢で臨むべきと語り、ボブ・コーカー上院外交委員長はカショギ氏殺害に関するサウジ側の説明を「信用に値しない」と一蹴した。アメリカ国内で数万人規模の雇用が生まれると、サウジ向け武器輸出の経済効果をアピールしてきたトランプ政権だが、増え続けるイエメン内戦の犠牲者や、カショギ氏の殺害によってサウジ政府に対する批判が高まる中、武器輸出について明確な回答を出さなければならない状況に直面している。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う