カショギ氏殺害事件 サウジに兵器輸出続けた欧米との関係は?
母国の近代化を訴え続け、米ワシントン・ポスト紙にも定期的に寄稿していたサウジアラビア人ジャーナリストのジャマル・カショギ氏が、トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館内部で死亡してから、3週間が経過した。トルコ人女性と再婚する予定だったカショギ氏は、前妻との離婚が成立していることを示す書類をもらうために2日午後に総領事館に入ったが、建物から出てくることはなかった。周辺の防犯カメラの映像やカショギ氏が身に着けていたスマートウオッチで録音された音声記録(婚約者のデバイスに転送されていたとされる)などから、トルコ当局はカショギ氏が総領事館内で殺害された可能性が高いと判断。その後に行われた総領事館での捜索や、カショギ氏の殺害に関与したとされる15人のサウジアラビア人チームの存在、カショギ氏との確執が取り沙汰されていたサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(MBS)皇太子が殺害を指示した可能性などについては日本でも繰り返し伝えられた。カショギ氏の殺害によって、サウジアラビアと欧米との蜜月関係はどうなるのだろうか?
重い腰を上げる格好となった欧米諸国
カショギ氏がイスタンブールのサウジ総領事館の内部で「殺害」されたことが明らかになったことで、サウジアラビア政府や昨年夏に王位継承者となったMBS皇太子に対する非難は現在も続いており、サウジアラビアとの大きな軋轢(あつれき)があまり表面化してこなかった欧米諸国がサウジアラビアとの距離感を再考し始めている。サウジアラビアによる他国の内戦への介入や自国民に対する弾圧は今に始まった話ではないが、カショギ氏の死によって、多くの国が重い腰を上げた。 「人権」や「透明化された民主主義」が市民からたびたび大きな問題として挙げられるものの、欧米諸国とサウジアラビアの国家間レベルでの関係は長年にわたって良好な状態にあり、輸出入の視点から考えた場合、サウジアラビアは「起こしてはならぬ寝た子」ともいえる存在であった。世界有数の石油生産国の1つで、国外にも多くの資産を保有し、対外投資も積極的に行っているサウジアラビアと外交で軋轢を抱えた場合、二国間だけの関係にとどまらず、世界経済に少なからぬ影響を与えるという見方は強い。加えて、サウジアラビアと欧米諸国との蜜月関係を作り上げているのが、サウジアラビアに輸出されていく欧米製の兵器だ。 2015年に始まったイエメン内戦では、これまでに最大で5万人の民兵が死亡し、国連人権高等弁務官事務所は約7000人の民間人が命を落としたと報告書の中で伝えている。子供たちを乗せたスクールバスが空爆の犠牲になるなど、イエメンで空爆やミサイル攻撃によって多くの民間人が命を落としたというニュースは、時折日本でも報じられることがある。イエメン内戦は犬猿の仲で知られるサウジアラビアとイランによる事実上の代理戦争とも指摘されているが、サウジアラビア空軍による爆撃は頻繁に行われており、イエメンに落とされた爆弾のほぼ全てが欧米から輸入されたものだ。 スウェーデンにあるストックホルム国際平和研究所が2018年5月に発表した、世界の軍事費についてまとめた報告によると、サウジアラビアは2017年にGDPの1割となる690億ドル(約7兆7000億円)を軍事関連に使っており、アメリカと中国に次いで世界第3位の軍事費大国となっている。 サウジアラビアの下にはロシアとインドが続くが、人口3000万人ほどのサウジアラビアがランキングの3位に入るのは異常にも思える。同研究所が3月に発表した別の報告書では、サウジアラビアの軍事費は2013年から2017年までの5年間で大幅な増加を見せており、2008年から2012年までの5年間と比較すると、実に225パーセント増となっている。兵器購入の相手先は、全体の98パーセントをアメリカとEU加盟国が占めており、残りは中国やロシアといった国々だ。 アメリカはトランプ大統領にとって初の外遊となった昨年5月のリヤド・サミットで、サウジアラビアに総額12兆円規模の兵器類を輸出することで合意。トランプ政権はこの「大型取引」によってアメリカ国内に数万人規模の雇用が生まれるとアメリカ人有権者に向けてアピールしたが、結果的にサウジアラビアの軍拡を推し進める格好にもなった。サウジアラビアの軍事大国化は、昨年7月に王位継承者となったMBS皇太子も同じ姿勢を見せており、イエメンへの軍事介入やカタールに対する武力をちらつかせた恫喝外交はMBSによってより激しさを増しているのが現状だ。