中国の超大国化を支える構想から見える、ロシアと中国の「決定的な違い」
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一帯一路とは何か、ロシアと中国の決定的な違い
中国が追求する世界戦略は、現在のところ「一帯一路」の概念によって説明されることが多い。 一帯一路とは、中国を起点として、アジア~中東~アフリカ東岸~ヨーロッパを、陸路の「一帯」とし、海路も「一路」で結び、経済協力関係を構築するという戦略である。経済政策、インフラ、投資・貿易、金融、人的交流の5分野で、交易の拡大や経済の活性化を図ることを目指している。「一帯一路」構想は、ユーラシア大陸を貫く(中国勢力圏の)複数の帯を放射線上に伸ばすだけでなく、大陸沿岸部にも中国から伸びる海上交通路を確立することを目指している。 南下政策の伝統的なパターンを踏襲するロシアの影響力の拡張に対して、一帯一路は、ユーラシア大陸の外周部分を帯状に伝って、中国の影響力を高めていこうとする点で、異なるベクトルを持っている。ロシアのように、大洋を求めて南下しているのではない。 中国は、資源の安定的な確保や市場へのアクセスを狙って、リムランドにそって影響力を広げていこうとしている。そこで一帯一路は、シー・パワー連合の封じ込め政策と、点上においてではなく、平行線を描きながら、対峙していくことになる。
中国の「両生類」を支える一帯一路
中国は至るところで圧倒的な存在感を見せるが、それはたとえば北朝鮮をめぐる問題などにおいても顕著である。超大国・中国が後ろ盾として存在している限り、単純な米国優位のままの事態の解決も容易ではない。 類似した構造は、ミャンマーにおけるクーデターの後に成立した軍事政権にもあてはまる。事実上の中国の後ろ盾があるからこそ、シー・パワー連合の欧米諸国を中心とする諸国からの圧力にも耐えて、存続していくことができる。 なお中国は、さらにアフガニスタンや中央アジア諸国、さらにはアフリカ諸国に関しても、財政貢献や政治調停への参画に関心を持っている。特に大量の援助を投入してきたアフリカにおける影響力は、かつてないほどに大きい。そこには一帯一路に象徴される視点にしたがって、自国の影響力を広げていこうとする圏域的な発想も見られる。 結局のところ、一帯一路とは、大陸系地政学の視点に立って言えば、中国という超大国の生存圏/勢力圏/広域圏を拡大させるにあたって政策的な指針となる考え方のことである。超大国となった中国は、極めて当然かつ不可避的に、国力に応じた自らの生存圏/勢力圏/広域圏の拡大を追求していく。 英米系地政学にしたがえば、シー・パワー連合は、この中国の圏域的な発想にしたがった事実上の拡張政策を、封じ込めるための努力を払っていくことになる。 ただしそれはロシアのような典型的なランド・パワーに対する封じ込めとはまた別に、「両生類」の超大国の拡張政策に対する封じ込め政策として追求されることになるだろう。つまり一帯一路という陸と海の双方で、リムランドにそって拡張していく中国の生存圏/勢力圏/広域圏の拡張政策に対する封じ込め政策として、追求されることになるだろう。 今後は中国の人口や経済成長の伸びは鈍化していくと予測されている。しかし急速な発展で超大国の一つとみなされるようになった中国が持つ影響力の拡大は、まだ相当な潜在力を秘めている。その一帯一路の戦略が、アジア太平洋の戦略と、紛争多発ベルト地帯にまたがる形で摩擦を生み出していく傾向は、今後さらに増えていくだろう。
篠田 英朗(東京外国語大学教授)