札幌の名物映画館『シアターキノ』誕生秘話 是枝裕和監督とも古いつながり
文化にとって一番大切なのは「多様性」
『シアターキノ』のようなミニシアターは全国各地にありますが、その多くは映画ファンからスタートし開館しているので、いわゆる営利追求型企業ではないという共通項を持っています。それぞれの方法で、それぞれの地域で、映画という文化を何とかして広めようと頑張っています。 「もちろん、大きな映画館に配給される映画にも素晴らしい作品はたくさんあるのですが、僕らは文化にとって一番大切なのは『多様性』だと思っているので、大手配給会社から漏れてしまう作品を、少しでも多く紹介したいと思っています。正直、今上映している映画の8割くらいは赤字なんですが(笑)、その『多様性』を原点に、低空飛行でもいいので映画館をつぶさない、ということが市民出資の映画館の使命なんです」と中島さん。 これまで数えきれないほどの作品を上映してきた『シアターキノ』では多くの出会いがありましたが、その中でも一番印象的なのは、2004年公開の映画『誰も知らない』(主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を獲得)が代表作である是枝裕和監督とのつながり だと、中島さんは語ります。是枝監督は、『誰も知らない』で注目を集める前も・後も、『シアターキノ』の舞台挨拶にも何度も登場しています。 「僕らは、『多様性』のほかに『可能性』も追求していきたいと考えています。これから伸びていくであろう作家たちを応援し、彼らがどんどん素晴らしくなっていくことは嬉しいですし、彼らの初期の作品を上映しているというのは、一番の誇りですね。是枝さんの作品はすべて上映していますし、『与えられた仕事』ではなく、『作りたいものを作ってきた』彼のような監督を応援していきたいという気持ちが大きいですね。『誰も知らない』は、『シアターキノ』では上映していたのですが、シネコンでものちに上映された初の作品になりました」(中島さん)
札幌には文化が足りない?
このように、「多様性」と「可能性」を感じる映画を通して、札幌の文化向上に寄与してきた『シアターキノ』。最後に中島さんは、こんな思いを打ち明けました。 「『札幌には文化が足りない』と言っている有識者は多いですけど、そんな飲み屋の愚痴のようなことを言っているくらいなら、行動を起こしたらいいんですよ。この場所に『足りない』と感じたことを、感じた人がそれぞれやってみればいいと思っています。自分たちの住んでいるところを楽しくしようと思ったら、行動するしかないんです。そうしたら……皆が楽しくなるはずですから」 (ライター・北海道観光マスター/橋場了吾)