朝ドラ『虎に翼』39歳俳優の“細かい動作”から目が離せない。長官室で鼻血を出した航一を抱きとめ
最高純度の孤独として結実
どうやら桂場は誰かが退室したあと(あるいは退室と同時)で、こうした微細な動きをする傾向にある。3つ目は、最高裁判所長官室での動作。第24週第120回、今度は寅子ではなく、ライアンこと、東京家庭裁判所所長・久藤頼安(沢村一樹)がやってくる。 久藤は、亡くなった裁判官・多岐川幸四郎(滝藤賢一)が書いた少年法改正についての意見書を持ってくる。「じっくり読んで」と言って、書類を桂場の机にそっと置き、久藤は、静かに退室する。桂場は押し黙った状態で、口元にあてていた左手を下ろす。そして少し目をつむったあと、書類が置かれているほうへ視線を遣る。 怒りや悔しさが同時に押し寄せ、まぜこぜになった恐ろしげな表情。やや顎を引いて、顔を固定させ、ただ一点を見つめる。画面上ではしばらく無音状態が続く。まるで1920年代の(特にドイツあたりの)サイレント映画に登場する強面のように写っているなと思った。 桂場は、書類を手に取り、ページを開く。ちくしょう。何が何でも中身を読んでやるぞという激しい情念を感じる。ひとり長官室で孤独にうちひしがれる桂場の動作は、冒頭で引用した寅子の言葉とは裏腹に、所長室での2つの動作を経て、動作そのものが最高純度の孤独として結実している。
長官室のドアをノックする航一
こうやって桂場の細かい動作に注目し、さっきの場面で最高純度のものを目撃しては、長官室で次にどんな動作が繰り出されるのか、まったく想像がつかない。長官室の桂場がひとり、想像上の多岐川から非難され、激昂する場面があったりするが、第25週第125回、思わぬ人物が場外からするりと入り込んだ。 寅子の同僚判事であり、事実上の夫婦関係にある星航一(岡田将生)である。航一は、山田轟法律事務所に相談にきている斧ケ岳美位子(石橋菜津美)による尊属殺の調査を担当している。第121回での長官室場面。航一が桂場に「お疲れのようですね」と言うと、桂場が「それは君も同じだろ」と返す。 第124回ラスト、航一が再度長官室に行く。ドアの前で息を整えノックすると、中から「入れ」と桂場の重々しい声。この場面の直前、航一の長男・星朋一(井上祐貴)が裁判官を辞めたいと激白した。半ば左遷的に家庭裁判所に異動命令がでた朋一は妻との関係性に深く悩んでいた。息子からの心の叫びを受けて、航一は自分に任せておけという表情で颯爽と長官室のドアをノックしたのだ。