【阿蘇・戻る活況 オーバーツーリズム抑止へ㊤】草千里へ連なる車列 渋滞、マナー違反…地元に懸念
熊本県内有数の観光地、阿蘇ににぎわいが戻っている。訪日客の宿泊数は、熊本地震前の水準を上回る好調ぶり。増えすぎた観光客が住民生活や環境をおびやかすオーバーツーリズム(観光公害)は阿蘇でも懸念されており、駐車場からあふれた車による渋滞や、マナー違反に地元は頭を悩ませている。阿蘇市は観光庁の先駆モデル地域に選ばれ、オーバーツーリズム抑止に動き出す。阿蘇の現状と課題を報告する。 ◇ ◇ 「観光客の急増を身近に感じる日々で、売り上げも右肩上がり。今まで低迷していたので、とてもありがたい」。阿蘇市の草千里近くのカフェの経営者(54)は、毎週末の観光客のにぎわいぶりに声を弾ませる。 新型コロナウイルスの5類移行後、市内観光地は目に見えて観光客が増えた。市によると、2023年の総入り込み観光客数(推計)は約652万人。16年の熊本地震で倒壊した阿蘇神社楼門が昨年末に復旧したことも追い風となった。
一方、観光客のマナーの問題も表面化してきた。 「渋滞や路上駐車が周辺で起こり、牧野に出入りしづらい。放牧牛に触る観光客もいて、口蹄疫[こうていえき]などの感染症が心配だ」。黒川牧野組合の西岡春光組合長(62)は、観光客の迷惑行為に頭を悩ませている。 牧野は山上に続く県道(通称阿蘇パノラマライン)沿いにあり、牛と草原の風景を撮影しようと、路上駐車する観光客が後を絶たない。00年に続き、10年に宮崎県で口蹄疫が発生した際は、警戒強化のため同牧野の一部で牛の放牧中止に踏み切った経験がある。それだけに「農業と風景に関心を持ってくれるのはありがたいが、マナーは守って」と訴える。 登山客増加に伴う自然環境への影響も懸念される。「登山の踏み跡で土壌の弱体化が起きている」。環境省などと登山道の再整備に取り組む渡邊裕介さん(42)によると、手軽に登山を楽しめる烏帽子岳や杵島岳の頂上付近で土壌流出が目立つという。渡邊さんらは自然材料を使った再整備を進めるが、「国や自治体などの登山道管理者の意識がまだ低い。生態系が崩れている状態が当たり前になりつつある」と懸念する。