トランプの「バンス副大統領」が世界にもたらす新秩序
<トランプが副大統領候補に選んだ39歳の若き上院議員はアメリカ・ファーストの後継者>
数カ月にわたる駆け引きの末、ドナルド・トランプが副大統領候補に指名したのは、アメリカ・ファーストの後継者であるJ・D・バンス上院議員だった。 【動画】トランプ暗殺未遂、死に直面した瞬間を3D映像が鮮明に再現 バンスは、外交はおろか政治経験もほとんどない。しかしその外交姿勢は、トランプ政権下でマイク・ペンス前副大統領が取った外交路線とは一線を画す。ペンスは在任中の多くの時間を、同盟国やパートナー諸国を安心させるための外遊に費やし、予測不可能なトランプの行動の意図を説明することに力を注いだ。 もしトランプが11月の大統領選で当選したら、バンスもトランプ同様の影響力を持つかもしれない。バンス副大統領の誕生は世界にどのような意味を持つのか。外交政策の観点から見てみよう。 <ウクライナ侵攻に興味なし、アジア・ファーストの孤立主義者> バンスはいわゆる「アジア・ファースト」を標榜する1人。欧州への関与を減らし、中国の台頭に対抗すべくアメリカの資源をアジアに向けるべきだと考えている。 議会ではウクライナ支援の継続に強硬に反対しており、アメリカは「あまりに長い間、ヨーロッパに安全保障を提供してきた」と主張。ヨーロッパ各国自身がウクライナへの軍事支援を強化するよう訴えている。 2年前、ロシアがウクライナに侵攻した直後、バンスは露骨にこう述べた。「正直なところ、ウクライナがどうなろうが知ったこっちゃない」。一方、アメリカが欧州を見捨てるわけではないとも発言している。 <経済ナショナリストを支持> バンスは対中国政策においては、「ストレートな経済ナショナリストの主張」を支持。中国からの輸入品の関税引き上げは、ラストベルト(さびついた工業地帯)に経済的チャンスをもたらすと考えている。 特筆すべきは、国内の半導体産業の強化を掲げてバイデン政権下で成立した「CHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法」を称賛していることだ。 中国が2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟して以降、アメリカは中国と正常な貿易を続けてきたが、バンスは中国の最恵国待遇を取り消す法案を提出している。世界経済の不安定化を引き起こす動きとなりそうだ。 <米英豪の軍事的枠組み「AUKUS」を支持> インド太平洋への関与を増やしたいバンスだが、アジアの同盟国に言及することはほぼない。今年2月、ミュンヘン安全保障会議の席でアメリカ、イギリス、オーストラリアの安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)の「ファン」だと発言、オーストラリアに軽く触れた程度だ。 中国に侵略されれば経済全体が崩壊しかねないとして、台湾は保護されなければならないとしている。 <気候変動問題では立場を変える> 気候変動に関するバンスの立場は上院選への出馬で変化している。20年には気候問題が迫っていると語っていたが、出馬に当たってトランプの支持を求めるや、人間が気候変動の責任を担うという見方には懐疑的だと語っている。 11月の大統領選までの数カ月の間に、バンスの外交哲学はどう変遷するのか。そこに注視することが、トランプの2期目、あるいは将来のバンス政権の概要を理解する上で重要なカギとなるかもしれない。 The Conversation Ava Kalinauskas, Research Associate, United States Studies Centre, University of Sydney and Samuel Garrett, Research Associate, United States Studies Centre, University of Sydney This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
アバ・カリナウスカス、サミュエル・ギャレット(いずれもシドニー大学・米国研究センター研究員)