9回2死の場面で敢行した盗塁に悔いなし――。なぜ八戸学院光星は土壇場でリスクを冒す選択をしたのか?
盗塁はリスクと考えれば結果的にいえば失敗に終わったわけだが、仲井監督はこの盗塁を後ろ向きにはとらえていない。 仲井監督はいう。 「そのために出している選手ですので、なんとか決めてくれると思った。アウトになってしまいましたが、試合展開からもそういう形で点を取らなければいけなかったし、こちらからアタックしていかないと点は取れない。その前の打者の時も走れないことはなかったですけど、カウントが3−2まで持っていけていた。逆に岡本大を警戒してくれて、打てる球が来るかなと思っていたので、作戦は外れたのですが、悔いはないです」 リスクと考えれば何もチャレンジはできない。甲子園は勝たなければいけない舞台ではあるものの、成長過程のある高校生にしてみればここで失敗をすることを恐れては、何も学ぶことはできないだろう。 「気持ちが引いてはいけないと思う。実力がないことがこの試合で分かったんで、もっとリードの取り方から盗塁のピッチャーの特徴を掴んだり、もっと言ったら、足を速くして、同じ場面で任された時には決めれるようになりたい」 2013年のWBCで鳥谷敬が見せた神走塁のように、試合の流れを手繰り寄せる盗塁は存在する。 いつか、岡本大がとんでもない盗塁を決めることができれば、この日のリスクも決して無謀なものとは思えなくなるだろう。この失敗を糧に盗塁を極めてほしい。 取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト) 【著者プロフィール】 うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。