石破首相が提唱「アジア版NATO」は実現可能か? 現実に独裁国家が核の力で現状変更を考えている
従来は、アメリカ一国の核戦力と、日本や韓国の通常戦力で、バランスを保ってきた。アメリカが、西側同盟の代わりである。そのアメリカの核の威力が神通力を失うと、この地域の安全保障にほころびが生じる。 一般の人びとは、安全保障と核の問題について最低限、どういうことをわきまえておけばよいだろうか。安全保障の目的は、人びとが、平和に安全に、幸福に暮らせることである。自分たちの国の人びとが。そして、世界のすべての国々の人びとが。
①いちばん大事なこと。……核戦争を避けること。 核爆弾は、破壊力が大きい。軍隊や兵器はもちろん、社会インフラまで吹き飛ばしてしまう。その破壊力は大きすぎて、人間の想像力が追いつかないほどだ。 核爆弾を撃ち合う核戦争は、人類文明を破壊してしまう。人類の終末かもしれない。核戦争を起こさないことを、最重要な目標としよう。 ②つぎに大事なこと。……通常戦争が核戦争に移行するのを防ぐこと。 戦争は、国と国との紛争を解決する手段である。残念ながら、戦争を完全になくすのはむずかしい。通常戦力による通常戦争は、起こるときには起こるものと覚悟しなければならない。そして通常戦争は、核戦争に移行する場合がある。
かつて日米戦争は、核戦争に移行した。移行するには条件がある。双方が核兵器をもってにらみ合っている場合、これまで核戦争が起こったことはない。核戦力の均衡が保たれるように、知恵をめぐらせなければならない。 ③あと大事なこと。……戦争と安全保障について、その歴史や現状を学ぶこと。 核戦争は、いまここにある可能性である。それが現実にならないためには、各国の指導者や、専門家や、軍人はもちろん、一般の人びとが正しい知識と関心をもち、賢明に適切に行動する必要がある。賢明に適切に行動することを、自分たちの誇りとしよう。
④最後に大事なこと。…人類の未来を信じ、未来の世代に責任を持とう。 過去の世代が犠牲を払ったおかげで、現在がある。現在を生きる人びとは、未来の世代に責任がある。人類の未来を台無しにしないように、現在できることに知恵をしぼろう。 ■核兵器を開発している独裁国家が日本のすぐそばに 東アジアは不安定な地域だ。日本のすぐそばに、権威主義的な独裁国家があって、核兵器を開発し、その威力によって現状を変更することを考えている。話し合いで解決がつく相手ではない。隣人は選べない。日本の人びとが望んだことではなくても、これが現実である。
日本の安全を守るために、自衛隊があり、日米安全保障条約がある。だが、それが万全でないことがはっきりしてきた。ひとりでも多くの皆さんが、安全保障について考えを深めていただけるように望んでいる。
橋爪 大三郎 :社会学者、大学院大学至善館特命教授