【名馬列伝】「牝馬の枠に収まらない」デビュー前のジェンティルドンナに抱いた石坂調教師の直感。牝馬三冠は偉大な貴婦人物語の序章に過ぎない<前編>
史上4頭目の牝馬三冠へ。秋華賞は歴史に残る大接戦に
秋シーズンも、春の再現ともいえるレースが続いた。初戦のローズステークス(GⅡ、阪神・芝1800m)でヴィルシーナを一蹴して勝利を飾ると、牝馬三冠の最終戦・秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)へと駒を進める。 その秋華賞は激しいレースとなった。ヴィルシーナは積極策で2番手を進み、ジェンティルドンナは8~9番手に位置を取る。レースは1000mの通過ラップが62秒2という前に有利なスローペースとなり、後ろから進んだジェンティルドンナにとっては思わぬピンチとなる。直線へ向くと、早めに仕掛けて後続を引き離したチェリーメドゥーサをめがけてヴィルシーナがスパート。それに次いで外からジェンティルドンナが襲い掛かり、2頭が併せながら先頭を交わして息詰まる一騎打ちの状態へ。いったんは差されたヴィルシーナが差し返す勢いを見せると、鋭さに勝るジェンティルドンナはねじ伏せようと闘志を見せる。2頭は馬体を並べてゴールし、写真判定となった結果、ジェンティルドンナがハナ差でヴィルシーナを下していた。これで両馬の対戦機会が4連続1、2着という珍しい記録となった。 史上4頭目の三冠牝馬となったジェンティルドンナは、通常なら古馬牝馬との戦いとなるエリザベス女王杯(GⅠ、京都・芝2200m)へ進むものだろうが、ここでまたも石坂調教師とオーナーである(有)サンデーレーシングは勇敢な進路を選択する。オルフェーヴル、ルーラーシップ、エイシンフラッシュ、それに加えて凱旋門賞馬であるソレミアと、牡馬の強豪が轡を並べるジャパンカップ(GⅠ、東京・2400m)への参戦を表明したのである。これは石坂が2歳のジェンティルドンナに対して抱いた「この馬は牝馬の枠に収まり切らない存在になる」という思いを現実にするような決断だった。<後編に続く> 文●三好達彦