【名馬列伝】「牝馬の枠に収まらない」デビュー前のジェンティルドンナに抱いた石坂調教師の直感。牝馬三冠は偉大な貴婦人物語の序章に過ぎない<前編>
牝馬クラシック戦線で激闘を重ねる”ライバル”との出会い
石坂の思惑にジェンティルドンナは満点回答を出す。道中はややかかる素振りを見せながらも3~4番手で我慢させて進むと、直線で鋭い脚を使って一気に抜け出し、2着の牡馬マイネルアトラクトに1馬身1/4差を付けて快勝。牝馬クラシック戦線に堂々と名乗りを上げたのである。 その後、追い切りの中間で熱発してしまい、一頓挫あったチューリップ賞(GⅢ、阪神・芝1600m)を4着としたジェンティルドンナは、調子を上げながら一冠目の桜花賞(GⅠ、阪神・芝1600m)へ向かっていった。そこで、クラシック3戦を通してバトルを繰り広げるライバルと出会うことになる。 2歳牝馬チャンピオンであるジョワドヴィーヴルに次ぎ、オッズ4.9倍の単勝2番人気でスタートを迎えたジェンティルドンナ。道中は”出たなり”で後方の10番手付近を追走し、スピードを上げながら第4コーナーから外へと進路を取る。先団の馬群からはクイーンカップ(GⅢ、東京・芝1600m)の勝ち馬でディープインパクト産駒のヴィルシーナがしぶとく抜け出してゴールを目指すが、それを外から強襲したのがジェンティルドンナ。上がり最速(34秒3)の末脚を爆発させてゴール寸前でヴィルシーナを捉えると、半馬身差をつけてゴール。鮮やかに一冠目をゲットした。 続くオークス。トライアルのフローラステークス(GⅡ、東京・芝2000m)を圧勝したミッドサマーフェアが単勝1番人気に、距離適性が高評価を受けたヴィルシーナが2番人気に推されるなか、ジェンティルドンナはそれに続く3番人気に甘んじる。しかし、結果は残酷なまでにはっきりとした形でジェンティルドンナが図抜けた能力の高さを明らかにする。 道中は後方でレースを進めたジェンティルドンナは、直線で外へと進路を取ると鞍上のゴーサインを受けてスパート態勢に入る。すると、今回も上がり最速(34秒2)の末脚を繰り出し、一気に馬群を飲み込んで先頭に躍り出る。そして、後続馬群から抜け出した2着のヴィルシーナに5馬身という決定的な差を付けて優勝。無双の走りで樫の女王に輝き、牝馬クラシック二冠制覇を達成したのだった。