文部科学省がネットワーク強化を訴え――New Education Expo 2024
2024年6月6日~8日、東京・有明で教育関係者向けの総合展示会「New Education Expo 2024 in 東京」が開催された。数多く開催されたセミナーの中から注目のトピックを紹介する。 【図版】発表スライドを見る セミナー「Next GIGAを見据えた教育の情報化」には、文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課 課長の寺島史朗氏が登壇した。寺島氏は全国学力・学習状況調査の教科調査とICTの活用頻度との関係に言及。「ICT活用の単純な頻度と学調の正答率の間に直接的な相関は見られない」とする一方、「主体的・対話的で深い学びに結びつく活動とICT活用の間には相関関係がある。そして、主体的・対話的で深い学びに取り組む児童・生徒の方が正答率は高くなる傾向が見られる。そうした授業をしやすくしているのがICTだ」と指摘した。 授業などでの端末活用が進むにつれ、学校のインターネット接続回線の帯域不足が問題になってくる。寺島氏は「当面の推奨帯域を満たす学校は2割程度しかない。現状のネットワーク環境で十分な活用ができるか疑問がある。今は大丈夫かもしれないが、早晩問題に直面する」と指摘。「国としては、学びの保証の観点からもネットワーク環境の整備をしっかりしてほしい」と訴えた。
民間の協力でデジタルシティズンシップ教育に取り組む
急速に進化する生成AIを教育に生かす試みが増える中、生成AIをテーマにしたセミナーも多数開かれた。その一つが「デジタル・シティズンシップ 生成AIの倫理的課題とELSIの観点から考える」だ。「ChatGPT」の登場以降、特にAIのELSI(倫理的、法的、社会的課題)に関する議論が盛んになった。デジタルのよき使い手になることを目指すデジタルシティズンシップ教育においても、AIのELSIは避けて通れない課題だろう。セミナーでは茨城県の取り組みを紹介しつつ、AIとの向き合い方について議論が交わされた。 茨城県教育委員会は2022年度(令和4年)から教員向けにデジタルシティズンシップの研修を順次実施。2023年度(令和5年度)からは中高生を対象に「茨城県デジタル・シティズンシップ教育推進事業」を開始した。学校での授業に加え、複数の民間事業者から協賛を得てIT企業訪問やコンテンツ制作セミナーなどを実施し、2024年1月には事業の成果発表会を開いた。 茨城県立竜ヶ崎第一高等学校では、デジタルシティズンシップの授業として「生成AIが私たちに与える影響」というテーマで、画像生成AIでイラストなどを生成しながらAIのバイアスについて学んだ。授業を担当した教諭の亀田陽介氏は、「実際に生徒たちがやってみて社会問題を実感することが大事だ」と語った。 実践報告を受けて、公立はこだて未来大学 システム情報科学部 教授の美馬のゆり氏は、「AIにはバイアスがあるというだけでなく、さらに議論を深めてほしい。答えがないので、生徒たちはモヤモヤした気持ちで終わるだろうが、考え続けることが大事だ」と述べた。さらに、「AIリテラシーには知識とスキルだけでなく、態度や価値観が含まれるところが特徴」と説明し、授業と学習を「ELSI志向の問題解決型学習と議論を基盤としたAI時代の授業に転換していく必要がある」と主張した。