ツエーゲン金沢U-18 齋藤将基監督#1「響いた言葉は''辞めるのはいつでもできる''」
ツエーゲン金沢U-18の齋藤将基監督は、チームを率いて3年目を迎えたクラブのOBでもある。独自の指導手法で個とチームの強化に知恵を絞り、的確な判断力と豊かな発想力を備えた選手育成に心血を注いでいる。昨季はプリンスリーグ北信越1部で6位。今季は第7節を終えて7位と中断明けからの巻き返しを図り、来季のプレミアリーグ昇格を見据える指揮官に指導法などをお聞きした。 ――2014年に金沢で現役を退いた翌年からトップチームのアシスタントコーチに就任しました。セカンドキャリアは指導者と決めていたのですか? 小学校の卒業文章には何も考えずに「将来はサッカーの監督になりたい」と書いていますが、あの頃からそういう思いがうっすらとあったのかもしれませんね。現役時代は引退後もサッカーの道に進もうと積極的には考えておらず、いろいろ模索していました。そんな折、クラブからトップチームのコーチを打診されたんです。少し迷いましたが、お世話になることにしました。 ――就任当初の一番の苦労とはどんなことでしたか? まずサッカーをより深く知ることから入り、徹底的にサッカーの勉強をしました。そこがないと何も始まりません。今、育成年代を見ていますが、サッカー選手を指導するという仕事だけではなく、ひとりの立派な人間になってもらいたいという思いで接しています。選手には信頼される大人になることを求めているので、自分も一人の人間として、もっと成長しないといけません。 ――クラブの公式サイトに、「誰よりも失敗してきた経験とたくさんの出会いで得た学びを誰よりも情熱を持って選手に伝えたい」とあります。 自分の高校時代を振り返ってみると、ものすごく甘い人間でしたから、自分を代表例に挙げてこういう人間は失敗すると伝えています。失敗する人の典型的なパターンが、何かを始めても長続きせず、大切なベースの部分をおろそかにしがちなことですよね。選手として、人として成功するには何が必要なのか。私の失敗した経験を選手が生かしてくれたらいいなと思っています。いろんな人と話しながら、自分は今もそんなことを模索しています。 ――今まで大勢の指導者に出会ってきましたが、お手本にする監督や響いた言葉などはありますか? 今まで出会ってきたプロ意識の高い人たちが常々口にしていたのが、「辞めるのはいつでもできる」ということでした。辛抱強く続けることの大切さですよね、その言葉が自分の中では強く響いています。この人が言ったというわけではなく、大勢の人たちがそう話していました。続けるほうが間違いなくしんどいわけですけど、それが自分の糧になっているんだと思います。 ――指導者に転身し、今季で11年目です。育成年代と向き合うために最も重要なこと、難しいことは何でしょうか? カテゴリーによってそれぞれ難しさがあると思いますが、選手に成長してもらうためにいろんなことを考えるのが楽しくて仕方ないので、難しいということはあまり感じないですかね。選手個々に対し、どんなアプローチをしようか考えることにやりがいを感じます。選手育成、人間形成の過程で難しさは絶対にありますが、トライして失敗するほうがいいのではないでしょうか。 ――齋藤監督のチームづくりに対する哲学を教えて下さい。 11人の個性が光り輝き、評価されるチームが理想です。サッカーはチームスポーツですが、やはり個人があってのチームだし、個の力を生かすのがチームですよね。右向け右ではありませんが、どうも日本は同じ方向に向かっていく傾向がありますが、異質でもいいと思います。どうやったら個の能力をチームに還元できるかというのが一番大事なんです。指導者によってそれぞれ考え方は違うでしょうし、そこがまた面白いところです。 ――システムへのこだわりはありますか? センターフォワードとかボランチ、センターバックといった概念を取り払っているので、システムやポジションによるサッカーはやっていません。ピッチの中では攻守において常に役割が変わりますから、選手が今の自分の仕事は何だろうと考えた時、流動性が生まれてくるわけです。 ――選手の特性によって戦い方に変化が出るのですね。 そうです、そこです。今年でこの年代を指導して3年目になりますが、年によってコンセプトは全く違います。この選手をどこでどう使えば輝くのかな、といつも考えを巡らせています。 ――監督としての信念とか理念を教えて下さい。 人に何かを与えるために職業として指導者をやっていますが、仮に職種が変わったとしても私の思いは一貫しています。人のために手助けをしたい、というのが私の哲学で大事にしていることです。ユース年代でも個と個のぶつかり合いをやっていきたいのですが、どうも指導者同士の戦いというものが目に入ってきます。それもチームとしての戦いだし、大事なことなんでしょうが、自分の考えた通りにプレーしないと怒るし、そういう光景を見ると残念な気持ちになります。 ――昨シーズンはプリンスリーグ6位でした。今季はもっと上を狙いたいですね。 昨年はプレミアリーグに昇格した帝京長岡(新潟)が頭一つ抜けていましたが、今年は戦力が接近していて、かなりの混戦になると予想しています。去年はプレミアリーグのプレーオフに2チーム出場できましたが、今年は1位だけなんです。もちろん私も昇格を目指していますが、自分たちでしっかり目標を立てようと伝えたら、彼らも昇格したい思いが強いことを確認できましたので、そこへ向かって選手たちが頑張ってくれたらいいですね。 (文・写真=河野正)