阪神・川原陸

【岡田虎に翼】阪神の話題をさまざまな角度から提供する「岡田虎に翼」（掲載不定期）。今回は9月30日のDeNA戦（甲子園）でプロ初登板を果たし、2三振を奪うなど1回無失点と好投した川原陸投手（23）のここまでの道のりを、同学年でサンスポ阪神担当の中屋友那記者が振り返る。長い長い6年間の全てが、聖地のマウンドにつながっていた。 登板当日、寮を出発する川原がつぶやいた。「この緊張感、いつぶりだろうな」。6年かかった舞台だ。とてつもないプレッシャーだっただろう。逃げることなくそれを受け止め、穏やかな表情で甲子園に向かった。堂々と聖地のマウンドに立ち、三振を奪う姿はまぶしかった。登板後にあふれた言葉が、川原の飾らない本心だった。 「やっと…。やっとって感じが大きい。いい時間も悪い時間もあったし、思い出したらすごい時間がかかったなと思いますけど、きょう投げられたので、全部これのためなのかなと思った」 全ての経験がこの日につながっていた。1年目の2019年から腰痛に苦しむ。21年には左肩の痛みにより公式戦登板はゼロとなり、同年オフに育成契約となった。何をしても前に進めなかったという。ボールが投げられず、なぜ走っているのか分からない。その意味を見いだすのも辛くなったこともあった。 それでも、諦められなかった。「周りにいい人が多かった。自分の野球人生は人に恵まれている」。お世話になった指導者や先輩、スタッフに恩返しをしなければと思うと、立ち上がるしかなかった。地道にリハビリを続け、ファームで好成績を残して晴れて今年7月に支配下に復帰。シーズンの最後に手にしたチャンスで、鮮烈なデビューを果たした。 初登板で持っている力を発揮し、岡田監督は展開次第で3日のDeNA戦での登板も示唆した。一つ成し遂げ、また次へ―。川原がここまではい上がってきた歩みを止めることはない。（中屋友那） ■川原　陸（かわはら・りく）　2000（平成12）年12月12日生まれ、23歳。長崎市出身。創世館高から19年D5位で阪神入団。1軍登板なし。故障に苦しみ、21年12月から育成契約。今年7月に支配下に復帰。今季2軍では50試合登板、2勝1敗1セーブ、防御率1・62。左投げ左打ち。186センチ、89キロ。年俸420万円。背番号「92」