ロシア軍の名うてのドローン操縦士、肉弾突撃に投入され死亡か 指揮官の腐敗告発
ドローン(無人機)に人は搭乗していないが、地上にパイロット(操縦士)がいる。そして、ドローンは技量のある操縦士がいて初めてその力を発揮する。 ウクライナが今年、ウクライナ軍に独立軍種として「無人システム軍」、通称「ドローン軍」を設立したのもそのためだ。ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官(大将)はCNNのインタビューで、ドローン軍は「各方面の戦線でその有効性を証明しています」と語っている。 一方、ロシア軍にドローン専門の独立軍種は存在しない。そしてこれは、ロシア陸軍で指折りの熟練ドローン操縦士だったドミトリー・リサコフスキーの身に降りかかった災難の一因でもあったかもしれない。 リサコフスキーは13日、ウクライナ東部ドネツク州ポクロウシク市の中心部から南東へ6.5kmほどのリシウカ村に対する歩兵突撃の際に、行方不明になったと伝えられる。周知のとおりポクロウシク正面は現在、東部戦線で最も危険な正面のひとつになっている。 ロシア軍の失敗に終わったこの突撃に、リサコフスキーはドローン操縦士として参加したのではなかった。ライフル銃を携行して一歩兵として戦い、伝えられるところでは死亡した。本人も死期が近いことを予感していたようだ。攻撃直前に自撮りした動画のなかで、「わたしは戻ってこられない可能性が高い」と話している。 ロシア軍はウクライナ軍よりも格段に規模が大きく、全体として見れば装備面でも上回っている。それなのに、ドローン戦でウクライナ軍に対抗するのに苦労しているのはなぜなのか? そう不思議に思う人は、ドローンの成功したどの任務飛行の裏にも、人間がいるということを思い起こすといいだろう。ウクライナがドローンの操縦士たちを大切にしているのは、たんにそれが正しいことだからだけではない。各操縦士が生き延びてくれれば、経験が蓄積され、技能も高まっていくからだ。
最後の動画で新指揮官の無能ぶりや腐敗を非難した
ウクライナ軍のFPV(一人称視点)ドローン操縦士は最近、空中でロシア軍の監視ドローンもよく落とし始めているが、これにはそれなりの理由がある。この種の空中戦は、必要とされる状況認識や精度の関係ですこぶる難しい。空中目標に対するドローンでの攻撃は、操縦士がきわめて熟練しているからこそ可能なのだ(編集注:ウクライナ軍は一方で、自動誘導など自律性の高い迎撃FPVドローンも使い始めているとみられている)。 これに対して、ロシア軍がドローン対ドローンの格闘戦で敵ドローンを撃墜したという事例ははるかに少ない。全体的に、ドローン操縦士の技量レベルがウクライナ側よりも低いことが一因なのは間違いない。そしてその低さは、リサコフスキーのように経験豊かな操縦士をロシア軍が浪費していることが原因かもしれない。 リサコフスキーはもともと、「ドネツク人民共和国」と名乗る組織の軍隊で戦っており、2022年2月にロシアがウクライナで拡大した戦争の初期に、この軍隊はロシア軍に吸収された。死亡報告のあった当時、ドネツク州のアウジーウカ─ポクロウシク軸に配置されているロシア陸軍第87独立狙撃連隊に所属していた。 エストニアのアナリスト、WarTranslatedが紹介・翻訳しているロシア側情報源によれば、リサコフスキーは第87連隊内で長距離ドローン偵察チームを自発的に結成した。彼のチームはこれまでに相当な数のウクライナ軍車両の位置を特定し、それには貴重な高機動ロケット砲システム(HIMARS)も含まれるという。 だが、有能なドローン操縦士としてのリサコフスキーの評判も、第87連隊の新たな指揮官にイーゴリ・プジクが就いたあとには彼を救うことにならなかった。プジクはリサコフスキーのドローンチームを解散させ、操縦士たちを歩兵小隊に配置転換したとされる。 最後の動画のなかで、リサコフスキーはプジクの無能さを非難するにとどまらず、彼の腐敗や反逆行為も告発し、プジクについて、西側当局者に情報を流しているというあるロシア人の「影響下にある」と主張している。