<新風・21センバツ上田西>/下 主将が攻守でチームけん引 責任感と覚悟芽生え 悩んだ日々、仲間が救う /長野
星稜(石川)など並み居る強豪を抑え、初のセンバツ切符を手にした上田西。その中心には3番、遊撃手として攻守にチームをけん引する柳沢樹(2年)がいた。東信地区大会から全試合で安打を放ち、打率は6割に迫った。華々しい活躍を見せたが、その裏には主将として人知れず悩み続けた日々があった。【皆川真仁】 「本当に大事な試合で打てないと、主将としてチームを引っ張っていけない」。北信越大会の決勝後、大会通算17打数10安打の好成績に反して、柳沢が発したのは内野安打1本に終わった準決勝の星稜戦の反省の弁だった。自分に対する厳しい言葉の裏に主将としての責任感と覚悟がにじんでいた。 上田市立丸子中から「地元のチームから甲子園に」と上田西の門をたたくと、1年秋にはレギュラーの座をつかんだ。下級生のまとめ役を任され、主将を選ぶ選手間投票では、ほぼ満票で選出された。「個性豊かなメンバーの力が一つになれば絶対に結果を残せる。自分がまとめて、お手本になるようなチームにしていきたい」 強い思いと裏腹に、主将就任後は自分の考えを素直にチームメートに発信できず苦しんだ。「人に注意するのに慣れていなかった。周りにどう言えばいいのか悩んでしまい、結局何も言えない状況が相当続いた」と振り返る。消極的な姿勢に、吉崎琢朗監督(38)からは「全然周りを見られていない。お前に粘りがないからチームに粘りがないんだ」とたびたび叱責された。 主将としてのあり方に人知れず悩み続けた末、出した結論は「自分一人ではまだチームを動かせない」。昨秋の公式戦を目前に控え、意を決して副将の梅香拓海(2年)と主務の土岐栞太(2年)に協力を仰いだ。2人からかけられた言葉は「もっと(頼って)相談してほしい」。 支えてくれる仲間の存在に気づき、チームの責任を一身に背負い込むのをやめた。3人を中心にまとまったチームは試合を重ねるごとに自信を深め、全国屈指の強豪・星稜までも撃破した。「今も理想の主将には遠い」という柳沢だが、「仲間に助けられて徐々に良くなってきています」と手応えをつかみつつある。 周囲の助けを借りながらも、自らがチームの先頭に立つ意識は忘れない。書き初めに記した新年の抱負は「率先垂範」。文武両道を目指し、部員の多くが所属する「進学クラス」より授業が難しい「特編クラス」に所属している柳沢。進路は野球で切り開くつもりだが、「積極的に前に出て、私生活でもお手本にならないといけない」と、文字通り部員に範を示している。 主将として苦悩の末につかんだ甲子園への切符。兄2人の影響で野球を始めた頃から憧れてやまない舞台だが、訪れたことはない。まだ見ぬ聖地で「チャンスで回ってきたら主将として意地でも一本打って、守備でもチームを救うプレーがしたい」と躍動を誓う。