異例の代表ダブル発表。森保監督は兼任監督ゆえの物理的難題をどう解決するのか?
さらに9月シリーズでA代表に抜擢した21歳のMF伊藤達哉を、今回はU-21代表に復帰させた。そして、久保に加えてDF橋岡大樹(浦和レッズ)、MF齊藤未月(湘南ベルマーレ)、FW田川亨介(サガン鳥栖)らのU-19代表組を、ひとつ上のカテゴリーに抜擢した。 森保監督は、その意図をこう説明した。 「伊藤達哉にはUAE遠征で、A代表で経験したことを発揮してほしい。A代表、U-21代表、そしてU-19代表の各世代の融合が図られるなかで、A代表に入った選手がどのような経験をしたのか、ということが東京五輪世代の選手たちに伝わっていけば刺激にもなるし、日本サッカー界のレベルアップにもつながっていくいい機会になると思っています」 一方で難問も頭をもたげてくる。来年1月のアジアカップ前で最後となる国際親善試合に臨む、A代表のコーチが不在となる点だ。フィリップ・トルシエ氏以来、2人目となる兼任監督を受諾した7月下旬の段階で、森保監督は日程が重複する状況を見越しながらこんな対策を語っていた。 「スタッフに関しては、プラスアルファで必要であれば技術委員会に相談して追加していきたい。いま現在フリーである方、仕事をされている方のすべてを選択肢としてもちながら、スタッフ編成をしていきたい。焦って決めるのではなく、最高で最強のスタッフになるようにしっかりと考えていきたい」 国内シーズンが佳境を迎えていることもあり、たとえ意中の人物がいたとしても、すぐに入閣させるわけにはいかない事情があるのだろう。ならば、災い転じて福となすとばかりに、森保監督は未来を見すえた顔ぶれを11月シリーズ限定で招へいした。 ともに年代別のアジア選手権を終えたばかりのU-19代表から秋葉忠宏コーチ(43)を、U-16代表からは齊藤俊秀コーチ(45)をA代表に入閣させた。前者は日本が28年ぶりに五輪の舞台へ戻った1996年アトランタ大会の、後者は悲願のワールドカップ初出場を果たした1998年フランス大会の代表メンバーにそれぞれ名前を連ね、2014年末からJFAのナショナルコーチングスタッフ入りしている。 そして、秋葉コーチは影山雅永監督(51)のもとで来年5月にポーランドで開催されるFIFA・U-20ワールドカップに、齊藤コーチは森山佳郎監督(50)のもとで同10月にペルーで開催されるFIFA・U-17ワールドカップに臨む。この時期に2人をA代表に加えた理由を、森保監督はこう説明する。 「各世代の代表コーチたちに、私たちのやっていることを伝えていきたい。その上で、彼らが影山ジャパンと森山ジャパンに戻ったときに、いろいろな部分で共通認識をもてれば。すべてのチームがコピーしたものにはならないと思いますが、どの世代も日本代表としての誇りを持ち、日本人のよさをもって戦っているなかで、選手だけではなくスタッフも共通認識をもつことで各世代の融合を図っていきたい」 東京五輪世代の20歳コンビ、DF冨安健洋(シントトロイデンVV)とMF堂安律(FCフローニンゲン)は今回もA代表に名前を連ねている。そして、前述したように東京五輪世代のU-21代表には、ひとつ下のU-19代表が6人招集された。 「東京五輪世代の選手たちには、A代表に関わりながら東京五輪に出る、という強い気持ちをもってもらいたい」 こう語る森保監督は就任以来、「世代交代」と「世代間の融合」を掲げてきた。二大テーマをさらに加速させていくためには選手だけでなく、年代別代表の首脳陣が意識を共有する作業も極めて重要になる。歴代の外国人指揮官のもとではなかなか生まれなかった縦のラインが、森保監督のもとで育まれていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)