豊洲マグロ初競り、2025年も1億円超えか? 本命、新勢力…それぞれの思い
新年恒例のマグロ初競りが、2025年も東京・豊洲市場(江東区)で1月5日に行われる。最高価格の「一番マグロ」に脚光が当たる風物詩で、24年は4年ぶりに1匹1億円を突破した。激戦を制した常連の勢いが止まらない一方、新たな勢力も台頭。一番マグロの争奪戦に注目が集まる。(時事通信水産部 岡畠俊典) 【ひと目でわかる】築地・豊洲市場の初競りマグロ最高値 ◆「景気回復の象徴」 豊洲市場で1年の最初の取引となる初競り。縁起の良い「初物」を祝い、豊漁などの願いを込める。かつては一番マグロに1匹3億円を超える史上最高値が付き、世間を驚かせた。新型コロナウイルスの流行下だった21年以降は、自粛ムードもあって最高値が同1000万~3000万円台と大幅に下落した。 コロナ感染症が5類に移行後の24年、インバウンド(訪日客)や外食産業の回復もあり、初競りは再び活気づいた。最高級ブランドの青森県大間産クロマグロ(238キロ)に、1キロ当たり48万円、1匹1億1424万円が付き、20年以来となる4匹目の「億超え」が誕生。23年の3倍となるご祝儀相場で、同市場関係者から「景気回復の象徴」との声が上がった。 競り落としたのは、同市場の有力仲卸業者「やま幸」。すし店「鮨 銀座おのでら」などを展開する「ONODERA GROUP」(オノデラグループ)が買い付けを依頼し、4年連続で手に入れた。 前回は珍しいケースもあった。2番目の高値だった大間産(177キロ)が1匹5310万円(1キロ当たり30万円)となり、23年の最高値だった同3604万円(同17万円)を上回った。例年、一番マグロ以外は高くても同1000万円ほど。同市場卸会社のベテランは「今まで聞いたことがない」と話した。二番を落札したのは、一番マグロをやま幸と最後まで競い合った同市場仲卸「米彦」。依頼したのは、静岡県内外ですし店「沼津魚がし鮨」を運営する「沓間(くつま)水産」(同県裾野市)で、初挑戦だった。 ◆「1億円が一つの指標」 一番マグロの競りは「ここ数年で勢力が変わった」と同市場関係者は語る。かつては、3億円超えを落札したすしチェーン「すしざんまい」を運営する「喜代村」の入手が続いたが、21年からはやま幸とオノデラグループのコンビが獲得。別のすし店や食品スーパーなど「新顔」の参入も目立つようになった。 25年の一番マグロはどうなるか。複数の豊洲市場関係者から「(前年の)1億円が一つの指標になりそうだ」との声が出ている。「それだけの資金を準備できる業者はそう多くないだろう」とみる向きがある一方、コロナ禍の収束で外食需要も堅調なことなどから、新たな参入業者がいても不思議ではないとの見方もある。 これまでの億超えの競りでは、最高評価の1匹に人気が集中した。ただ、良質なマグロが潤沢に入荷したり、人気や評価が分かれたりすれば、価格が抑えられるケースもある。競争相手との駆け引きもあり、「一番を競り落とすのは容易ではない」(同市場仲卸)といわれる。 ◆「本命」は5年連続に意欲 一番マグロの「本命」は、24年まで4年連続で獲得した常連のオノデラグループ。同グループの「銀座おのでら」をはじめ国内外のフードサービス事業を統括するONODERAホールディングスの長尾真司社長は「高値になる雰囲気があり、ある程度想定はしていた。最高のおいしいマグロだった」と、初の億超えを手にした前回を振り返った。 銀座おのでらは、高級すし店に加え、本格的な味をリーズナブルな価格で提供する回転ずし店などを国内外に展開。一番人気はマグロで、長尾社長は「店を象徴する『顔』になっている」と語る。マグロの目利きは、仕入れ先であるやま幸の山口幸隆社長に全幅の信頼を寄せる。前回の1億円超えマグロも、東京・表参道の回転ずし店で解体後、赤身とトロの握りずし2貫セットを限定価格の1080円(税込み)で提供。概算で1貫2万円前後になるというが、例年通り、感謝を込めた「破格値」で振る舞われた。 オノデラグループは24年11月、米ヒューストンで海外2店目となる回転ずし店を複合商業施設内にオープン。初競りで知名度も上がり、同施設を運営する現地の開発事業者から誘いを受けたという。準備を進めた「銀座おのでら」の坂上暁史・世界統括総料理長は「最初は不安だったが、開店初日に大行列ができた。日本のすしはまだ伸びしろがある」と実感する。 前回は、元日に能登半島地震が発生。複雑な心境の中、「食で明るい話題を届けたい」(長尾社長)との思いで臨み、売り上げの一部を復興支援として寄付した。25年も初競りに挑む予定で、長尾社長は「一番マグロを取って、たくさんのお客さんに食べて喜んでもらえれば。日本食を海外にも広めたい」と意気込む。 ◆「地域を盛り上げたい」 昨年の初参戦で高額の「二番マグロ」を入手した沓間水産(沓間大作社長)の動向も気になるところだ。「一番マグロを狙いたい」(同社の阿部和広取締役)と意欲を見せる。拠点を置く静岡県に、日本最大の魚市場、豊洲市場から貴重な縁起物を持ち帰ることで「地域を盛り上げるとともに、お客さんに還元したい」(同)と前向きだ。 24年12月、青森県沖でマグロ漁船が転覆し、3億円超えマグロを釣った大間の漁師ら2人が亡くなる事故が起きた。豊洲市場関係者は「命懸けでマグロを取る漁師たちにいつも感謝している。漁の安全を願い、初市が盛り上がって良い1年の幕開けになれば」と話す。 日本は世界有数のマグロ消費大国。25年からは、資源が回復している太平洋クロマグロの漁獲枠が増えることから、「消費者がより身近に食べられるようになるのでは」(同市場の水産業者)と期待される。「海のダイヤ」とも呼ばれ、日本の食文化を支えるクロマグロの初競りに、今年も熱い視線が注がれる。