再びロシアは貴重な早期警戒機を失う、生じる「レーダー探知範囲の隙間」
ロシア空軍に残された計8機のベリエフA-50早期警戒管制機(A-50MとA-50U)のうち1機を、ウクライナ軍が2月23日にどのように撃墜したかは正確にはわからない。だが、その理由はわかっている。 カナダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)研究者、ステファン・ワトキンスが最も簡潔にその理由を言い表しているかもしれない。「ロシア軍はA-50を1機失うごとに探知能力が低下し、ウクライナの空域を監視できなくなっている」 ロシアが2022年2月にウクライナに全面侵攻したとき、ロシア空軍は9機のA-50を運用していた。A-50はエンジン4発搭載のイリューシンIl-76輸送機がベースになっており、機体上部にレーダードームがあり、最大15人の乗員と戦闘管理者が乗り込める。 米空軍のE-3早期警戒管制機のようなA-50は、敵機やミサイルの探知で広範囲をカバーするために前線の後方を飛ぶ。高高度を飛行し、必要に応じて位置を変更できるため、指揮官がウクライナ空軍を監視し、ウクライナ軍のミサイルやドローン(無人機)の飛来を数分前に察知するのに役立っている。 A-50の重要性は、ウクライナが現在行っている占領下にある南部クリミアのロシア軍の兵站と軍艦を標的にした深部攻撃作戦で明確に示されている。ウクライナ軍が昨年末にドローンとミサイルでクリミアに設置された地上レーダー数基を破壊した後、ロシア空軍は防空網にできた穴をカバーするためにA-50をシフトさせたと伝えられている。
ここ数カ月で爆破されたロシア軍艦の数を数えるだけで同空軍の失敗を理解できる
ロシア空軍は、ウクライナ軍の巡航ミサイル迎撃にあまり成功していない。そのことを理解するには、ウクライナ軍がここ数カ月で爆破したロシア軍艦の数を数えるだけでいい。 だが、ロシア軍がクリミアにいる部隊を守ることができているのは、主にA-50がレーダー探知範囲を柔軟に変えられるからだ。ウクライナ軍がクリミアに設置されたロシア軍の地上レーダーを破壊するほどに、ロシア軍の司令官はA-50を南部の前線にますます接近させることで防空の隙間を補った。 A-50と、随行していたイリューシンIl-22空中指揮機が1月14日に、ウクライナ軍のおそらく米国製パトリオットPAC-2地対空ミサイルを発射したシステムに狙われることになったのは、ますます絶望的な状況になっていたためだ。ウクライナ軍にミサイルで攻撃されたとき、2機は前線から約96kmほど南のアゾフ海上空の狭い範囲で旋回飛行していたようだ。 IL-22は甚大な被害と負傷者を出しながらなんとか基地に戻った。A-50は炎上しながら海に墜落。高級将校数人を含む搭乗していた15人全員が死亡した。 1月の撃墜事件後、ロシア空軍は残りのA-50を守るため、前線から離れた場所に配備するようになった。ウクライナ国防戦略センターは今月初めに「ロシア軍はA-50をロシア国境やベラルーシ方面に配備するようになっている」と報告している。 前線から離れているが、十分ではない。2月23日に新たにA-50がアゾフ海のすぐ東のロシアのクラスノダール地方の上空で爆発し、乗員と戦闘管理者の10人全員が死亡した。 このA-50は攻撃を受けた際、前線から約193km離れていたと伝えられている。これはパトリオットの通常の射程を約48km超えているため、ウクライナ空軍が射程約257kmもある冷戦時代の古いS-200ミサイルを地対空ミサイルとして撃ち始めたという憶測や未確認の報道につながった。