「中国系というだけで」…ある華人の明るい振る舞いに隠されたカナダの「闇」と「差別意識」
北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第12回 『「自由なんてなかった」...“身分を偽って”カナダに渡った中国人たちがわざわざ母国に戻る謎』より続く
生まれのために夢を諦めて
2男5女に恵まれたジムは、ことあるごとに自分は「ラッキーセブン」に囲まれていると語っていた。夫妻は1952年にいったんカナダ西海岸に移り住み、当初はバンクーバーのグランビル・ストリートで食品店を営んだ。子供たち全員がそこで生まれた。競合店が多過ぎることから太平洋岸沿いに1500キロ北上したプリンス・ルパートに移り、今度は「コモドア・カフェ」を開店させた。 7年後、いとこのフォンが新規オープンした「モダン・カフェ」で働くため、ジム一家はアウトルックに戻った。翌年、ジムは2軒先に「ニュー・アウトルック・カフェ」を開店させる。 ジムは以前、近くのローズタウンという町でアマチュア無線の免許を取るために勉強したことがある。無線技師になりたかったという。 その気になれば、税務調査官や会計士も夢ではなかったろうし、ひょっとしたらブリティッシュ・コロンビア州の森林警備隊員として、せっかく学んだモールス信号で森林の状況を報告していたかもしれない。 しかし、父親からは、そういう仕事は華人のためにあるのではないのだから、レストランでおとなしく働けと諭された(当時の中国系カナダ人は、多くの職業が禁止されていた)。