パスワークで鮮やかにゴール奪った済美、1回戦敗退で持ち帰る課題は「心技体の体」
[7.27 インターハイ1回戦 駒澤大高 2-1 済美高 アロハフィールド] 持ち味を発揮することは、できた。しかし、勝つためには足りなかった。令和6年度全国高校総体(インターハイ)男子サッカー競技(福島)に出場した済美高(愛媛)は、1回戦で駒澤大高(東京2)に敗れた。 立ち上がりは勢いが良かったが、次第に試合のペースを奪われ、前半28分にFKから先制点を奪われた。リードした駒澤大高が少し守備に重心を置くと、済美は、巧みなパス回しでペースを奪還した。 後半7分、守備でボールを奪うと、自陣中央やや右寄りに位置を取った右MF沖宮駿(3年)が縦パス。ピッチ中央のスペースでパスを引き出したFW宮内黄(3年)が逆サイドへ展開すると、左MF河野椋衣(2年)が前に運びながらタイミングを合わせてクロス。ゴール前に飛び込んだFW兵頭陸(3年)がヘディングシュートを突き刺して同点に追いついた。 得点で自信を得た済美のパスワークは、テンポアップ。身長160センチの小兵である右DF南隆心(2年)が180センチ前後の駒澤大高のFWにプレッシャーを受けても、パスを出しそうで出さないモーションフェイクで翻ろう。臆することなくビルドアップを見せた。 ただ、DF清水喜生(3年)が「自分たちの、後ろからつなぐサッカーでボールを持てた時間もあり、ゴール前まで行ったけど、決め切れませんでした」と話したとおり、逆転ゴールは奪えなかった。好機を決めなければ、ピンチが来る。主将のDF岡田蓮(3年)が負傷交代した後の後半28分、決勝点を奪われて1-2の敗戦となった。 済美を率いるのは、2004年度の第83回全国高校選手権に初出場した際の主力だった渡邊一仁監督だ。東京学芸大を経て愛媛、岡山、横浜FCでプレーした元Jリーガーは、引退してすぐ、21年に母校で指導者に転向。昨季から監督を務めている。 「相手を見て(プレーする)というところは、一番大事にしている。勇気を持ってやってくれた時間帯もすごくあった。よくやったと言えば、よくやりましたけど、それを、よくやったで終わらせないように、選手権まで準備したい」と一定の評価を与えながらも悔しさをにじませた。 課題に挙げたのは、弱点の強化。先制点の場面では、競り合いに勝てず、あっさりとゴールを許してしまった部分もあり「変なエラーはなかったけど、心技体の体の部分で後手に回り過ぎた。縦に速いチームに、もう少し抵抗できないと。(競り合いでもう少し対抗できていれば)うちのやりたいことも、もっと出せたと思う。やられて分かったんじゃないかと思う」とたくましさを身につけさせたい考えを示した。 青森山田高(青森)でコーチを務めていたOBの松本晃コーチがチームに加わり、身体強化の面では新たなエッセンスも加えている。冬に向けて強化を続け、もう一度全国の舞台に立ち、進化した姿を見せたいところだ。 済美の選手の出身チームを見ると、FCゼブラや帝人サッカースクールなど地元のクラブチームの名前が並ぶ。私立高だが、県外生は、ほとんどいない。最近の全国大会では珍しいチームだ。 県内の有力選手は、愛媛FCやFC今治のアカデミーか県外への進学を選択する。県外流出に歯止めをかけたい気持ちがあることと、人工芝グラウンドを持っていないため、優秀な県外生を勧誘するのが難しい事情が背景にあるという。その中で、自ら声をかけてチームに誘った世代が現3年生。渡邊監督は「(県内生に)こだわるつもりはないけど、愛媛にも良い選手はいる」と地元の子どもたちが持つ可能性を信じている。 得点を挙げたFW兵頭は「全国を経験して、相手センターバックがガツガツと来るのに驚いた。ちょっとした、これでいいやろうという甘さがあったと思う。全国に出られたことで、レベルを知れたので、もっと努力して成長します」と再挑戦を誓った。6大会ぶりのインターハイで味わった悔しさを糧に、力強く全国で勝てる済美スタイルへの進化を目指す。 (取材・文 平野貴也)