生きるか死ぬかでトゥバ族の集落にたどり着いたら…牧歌的雰囲気かき乱す自称・作家兼映画スターのインド人
【実録・人間劇場】アジア回遊編~モンゴル(7) ビールをラッパ飲みしながらハンドルを握るカザフ人ムシンの運転で、アルタイ山脈の山を越え、谷を越え、川を越え、約8時間かけて私は「トゥバ族」という少数民族が暮らす山奥の小さな集落へやってきた。 この集落には3つの家族が生活していて、共同でヤク、羊、山羊の家畜を育てながら暮らしていた。このときは5月。冬の時期は雪山と化す地域なので、寒くなると里へ下り、育てた家畜を売った金で春を待つのだという。 家畜を売る以外にも私のような観光客を泊めるたびに家族には収入があるようだった。しかし、頻繁に町へは下りられない。第一、車を持っていないので馬で移動するしかない。肉以外の食料はムシンのようなドライバーに金を渡し、観光客を連れてくるたびに買ってきてもらうそうだ。 私は父、母、息子の3人家族が暮らす小屋に一晩泊まることになった。ドライバーのムシンは外に止めた自分の車の中で寝袋にくるまって寝るという。私のほかにもインド人の自称「作家兼映画スター」の男と彼について回っているモンゴル人の通訳も来ていたが、彼らは外に建てられたゲルで夜を明かす。 「私もゲルで寝てみたい」と心の中で思ったし、ゲルにはまだスペースがあったので言えば寝させてくれたと思う。しかし、そのインド人がかなりやかましい奴だったのだ。 「ヘーイ、ジャパニーズ! 東京、大阪、名古屋、福岡、長崎、沖縄! 私はインドで有名な映画スターだ。本も50冊も出している! 全部ベストセラーだ!」 通訳のモンゴル人はかれこれこのインド人と3週間もともに各地を旅していて、全部で50日間ガイドをするのだという。通訳の彼の表情から察するにこのインド人は相当うっとうしい。一緒のゲルで寝るのは避けたいところだった。私はインド人のことではなくトゥバ族のことが知りたいのだ。 集落に着くなり、一家の母親が私たちに食事を振る舞ってくれた。メニューは動物(おそらく山羊か羊)の頭の丸焼きである。寒い地域なので脂肪を蓄えているのか、ものすごい油だった。包丁で食べやすい形にカットしてくれている……わけではなくテーブルの真ん中に置かれたナイフで自分が食べる分の肉を削り取り、隣の人にナイフを回すというスタイルだ。 「おい、チキンはないのか? 訳してくれ」