<島から挑む・’22センバツ大島>第1部/上 仲間信じつかんだ勝利 /鹿児島
島から再び甲子園へ――。3月18日開幕の第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に、大島(鹿児島県奄美市)が出場する。2014年に21世紀枠で出場して以来、一般選考でつかんだ8年ぶり2回目の「春切符」。南風に乗り、甲子園に挑むチームを紹介する。【白川徹】 降りしきる雨の中、選手たちの肩からユニホーム越しに湯気が立ち上っていた。21年11月6日、鹿児島市で開かれた秋の九州地区高校野球大会1回戦。大島と大分舞鶴(大分市)の初戦は佳境を迎えていた。1点リードで迎えた九回表2死一塁の守備。「打ち取って勝ってやる」。闘志を燃やす大野稼頭央投手(2年)だったが、打球は中堅手の頭上を越えた。同点に追いつかれ、応援団で埋まったスタンドに悲鳴が響いた。「興奮していてあまり覚えてない」と大野投手。16奪三振の力投も降雨のため延長十回4―4の引き分け再試合となった。 大事な場面で悔しい思いをしたのは、初めてではない。先発した昨夏の鹿児島大会準々決勝は鹿児島実(鹿児島市)に8失点でコールド負け。塗木哲哉監督は「小中学時代は大野が頑張るしかなかったから『俺が、俺が』の投球になりがちだった。高校に入ってもほぼ直球しか投げてこなかった」と振り返る。 翌7日、大分舞鶴との再試合。前日に186球を投げ込んだ肩はずしりと重かった。そんな大野投手に武田涼雅主将(2年)は「俺たちが絶対に守る。打たせていけ」と伝えた。大野投手は「仲間を信じよう」とマウンドへ向かった。 もう強引に三振は狙わない。変化球を織り交ぜながら打たせて取る投球に切り替えた。二回に2点を失うが、力みが抜けた。3―2でリードして迎えた九回表のピンチも、あわやと思われた打球を二塁を守る田邊瑛吉選手(1年)が危なげなく捕球し、一塁へ送球し試合を決めた。 「あの試合が自分の投球スタイルのターニングポイントでした」。三振を狙うだけでは勝ち進めない。仲間を信じてつかんだ勝利。激戦を通じてエースは大きく成長すると同時に「全員野球」の意味を知った。九州大会は決勝で九国大付(北九州市)を相手に敗れたが、準優勝。大島の粘り強さを見せつけた。 1月28日、センバツ出場の知らせにナインは喜びを爆発させた。大野投手も「島のみんなで甲子園に行けることを誇りに思う。一緒にベスト8を目指す」と決意を新たにしている。