脆すぎる防御…10トライ喫した新体制ワースト「19-64」の完敗 ラグビー日本が世界一3度のNZから得た学び
8度目となったオールブラックスへの挑戦を検証
ラグビー日本代表の8度目のオールブラックスへの挑戦は19-64の完敗で幕を閉じた。10日26日、神奈川・日産スタジアムで行われた「リポビタンDチャレンジカップ2024」は、今春復帰したエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)の下でのワーストスコアを喫した。指揮官が打ち出す「超速ラグビー」と世代交代に苦闘しながらの大敗となったが、ワールドカップ(W杯)優勝3度、世界ランキング3位(11月1日現在)の常勝軍団からの学びも得た80分だった。(取材・文=吉田 宏) ◇ ◇ ◇ 第2次エディージャパン1年目の国内最終戦にはシーズン最多の6万57人が集まった。対戦相手がオールブラックスというラグビー界最高、唯一無二のブランドだったことを考えると、スタンド四隅を中心に1万を超える空席があったのは、苦闘続きの影響だろうか。6月の始動から積み上げてきた成果も、ビジターチームによる10トライの猛攻にかき消されたような戦いを、エディーはこう総括した。 「NZは最後までタフなパフォーマンスを続けていた。我々若いチームとしては、エネルギー、意図するもの、目的もそうだが、一瞬の隙も与えてはならないという大きな学びになる試合だった」 結論から書いてしまえば、課題は脆すぎる防御、そして指揮官も語った「学び」が収穫だろう。日本代表と同じく新体制で2024年シーズンを戦うオールブラックスを相手に、立ち上がりは速い展開で主導権を掴んだ。開始5分の先制トライは、ラックからWTBジョネ・ナイカブラ(東芝ブレイブルーパス東京)が、自らパスアウトしたボールをSH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)からリターンパスを受ける奇襲で一気にゴールラインを攻略した。エディー得意の相手を翻弄するプレーによる先制パンチ。いずれも準決勝でNZ相手に番狂わせを演じた、オーストラリア代表HC時代の2003年W杯(22-10)、イングランドを率いた19年W杯(19-7)でも、常勝軍団を想定外の状況に追い込むことで「いつもと違う」という心理的なプレッシャーを掛けた。 だが、その金星へのシナリオを、若い桜のジャージーは立ち上がり20分までしか演じ切れなかった。19分には敵陣ゴール前のラインアウトからの連続攻撃でトライを奪い12-14と喰らい付いたが、オールブラックスは、強豪待ち受けるヨーロッパ遠征への経由地でのゲームでも世界14位の日本代表をしっかりと分析していた。 日本の逆転トライがビデオ判定(TMO)で取り消された直後のスクラムから、右サイドを突破して一気にトライを奪ったのを口火に、前半残り20分間で5トライを畳みかけて勝負を決めた。試合後にエディーが「トライが取り消されたことに対して、感情面で対応することが出来ず、最終的にこの結果に繋がってしまった」と語ったように、この幻のトライからの失点が、ゲームの分岐点になったのは間違いない。 だが、日本代表に足りないものを考えると、精神的な落ち込みよりも防御面での機能に焦点を当てるべきではないだろうか。22分、25分、31分の連続トライをみれば、NZが日本のタッチライン際の防御の甘さを狙ってきたのは明らかだ。試合後の会見で、敵将スコット・ロバートソンHCにその意図を聞いてみた。 「もちろん事前に日本のプレースタイルはしっかりと見ていました。こういうスペースの使い方をするんだということは理解していたので、特に前半と、それから後半立ち上がりのところは、自分たちが思い描いていたような戦術を使うことが出来ました」 日本側の防御の破綻は、個人の責任だけで終わらせるものではないだろう。日本の幻のトライからのNZのスコアでは、WTBマロ・ツイタマ(静岡ブルーレヴズ)が内側のアタッカーをマークせざるを得ない状況で左サイドのスペースを抜かれている。これはツイタマのミスではなく、日本のライン防御が相手FBのライン参加に対応出来なかったからだ。25分、31分の失点でも、日本は自陣ゴール前のNZの速攻に防御を張り切れずに、右サイドを突破されている。失点の多くがターンオーバーされてからの速攻やカウンター攻撃に上手く攻守の切り替えが出来ていないという課題もあるが、日本が取り組んできた強豪相手にどこまで組織で戦えるかという防御面のテーマは十分に機能していない。 個人の1対1でのミスなら修正すればいいだけだ。だが、深刻なのは防御ラインという組織としての連係の未完成さだ。東京サントリーサンゴリアスでもプレーするNZ代表FLサム・ケインは、試合後に日本の防御についてこう語っている。 「日本は非常にいいスタートを切りました。自分たちのアウトサイドへの攻撃を考えると、そこを崩したといっても結局起点になるのはインサイドの攻防です。なので内側のラックからしっかりとスペースを獲っていくことが非常に大事なことでした。立ち上がりは日本の対応が速かったが、時間を追うごとに上手く対応出来なくなっていった。そこで我々が何に焦点を当てたかというとセカンドマンです。そこから徐々に改善するべきだとわかってきたので、アウトサイドの攻略も含めて、自分たちのゲームが出来るようになったんだと思います」