これが1万円ビニール傘の凄さだ! 1万円超えでも納得の使い勝手と美しさ! 下町から生まれた高級傘を試してみた
下町が生んだイノベーション!
日本人が持つ傘の平均所有本数は4.2本で世界一。低価格化と比例するように遺失、廃棄される数も増えている。「傘大国」だからこそ生まれた画期的なアイデア商品とは? 【写真8枚】ビニール傘とは思えない職人の手による美しさは必見 1万円ビニール傘を詳細画像でチェック ◆ビニール傘はもともと高級品だった? 日本人の傘へのこだわりには、高温多湿の気候のみならず、傘づくりが江戸時代から産業社会に組み込まれていた事実が見逃せない。当時も傘屋は自らつくるのではなく、各工程を下請けに任せ、企画と販売を担うプロデュースが主。時代劇で傘貼りの内職をする浪人が出てくるが、あれは士官先を持たない侍の人件費が安かったからだ。こうした合理的な構造が高品質な和傘、店が不意の雨に難儀するお客へ貸す数字入りの番傘を生んだ。 現在は安価の代名詞と思われがちなビニール傘だが、もともと日本発祥の高級品。開発したのは享保6年創業の老舗、台東区寿にある武田長五郎商店(現:ホワイトローズ株式会社)。戦後まもなく当時の先端素材であるビニールを採用、布生地を上回る防水性が評価され、2500円という高価格ながらヒット商品となる。 ◆アイデアと技が高める傘の存在感 日本の傘業界全体に暗雲が垂れこめたのは、80年代の円高不況だ。メーカーは製造拠点を中国に移転、低価格の輸入品による大打撃により、多くのビニール傘の会社が廃業する。国内で唯一残ったホワイトローズは、透明で差している人の顔が見えやすいという特長を生かし、選挙用の傘として売り出す。さらに当時の美智子妃のオーダーを受けた特注品を製作、宮内庁御用として注目を集めた。 同社の「かてーる16桜」は、同じビニール傘とはいえ、つくりの緻密さは雲泥の差。高級洋傘と同じ仕様に加え、ビニールもEVAをポリエチレンで挟むという三層構造で、生地同士が癒着しない。使いやすさを考えた技術の裏打ちを考えれば、1万円超えも納得できる価格だ。 同じく浅草に隣接した墨田区東駒形にある株式会社マーナ。明治初めにブラシや刷毛の商いから始め、現在はハイセンスで機能的な生活雑貨を扱う。同社が初めて手掛けた傘が「シュパット アンブレラ」だ。通常であれば、畳むときにベルトを使うので手が濡れてしまうが、こちらは生地を巻き込む特殊な構造により、閉じるだけできれいにまとまる。ベルトだけでなく、開閉ボタンもないミニマムさがスタイリッシュ。発売から一年余りで、順調に売り上げを伸ばしている。 ものづくりの盛衰は常に市場と表裏一体。だが、空模様を見ているだけでは晴れ間はない。下町が生んだイノベーションは「失くせない」「捨てられない」傘の価値をあらためて知らしめてくれる。 文=酒向充英(KATANA) 写真=五十嵐 真 (ENGINE2024年9・10月号)
ENGINE編集部