「人を育てるなんておこがましい」岡田武史・サッカー日本代表元監督が語る教育観 新たに始めた挑戦
1998年、サッカーワールドカップに初出場を果たした日本代表。チームを指揮したのが岡田武史だ。指導者、経営者に加えて、教育者として「平成」を見てきた岡田の新たな挑戦とは─。「Wedge」2024年6月号に掲載されている「平成全史 令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史」記事の内容を一部、限定公開いたします。 サッカー日本代表の監督も務めていた岡田武史はこの春、新たな挑戦を始めた。4月1日、クラブの名を冠した「FC今治高校・里山校」を開校させたのだ。全国から34人の新入生を迎え、岡田はこの高校の学園長を務める。断っておくが、サッカーを教える学校ではなく、男女共学の一般私立校だ。 【画像】「人を育てるなんておこがましい」岡田武史・サッカー日本代表元監督が語る教育観 新たに始めた挑戦 岡田は「教育は社会に出る準備期間」と捉えている。その社会が大きく変化しており、これから必要とされる人材も変わっていくはずなのに、教育は過去のまま。これでいいのだろうか─。学校創設前から疑問を抱いていた。 「世界を見渡せば、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイが大雨で洪水状態になったり、パキスタンでは国土の3分の1が浸水したりしています。これまでは考えられなかったことが起こっている。それは日本でも同じです。これからはロールモデルがない時代、過去のデータが通用しない時代になります。若い世代の人たちは、そういう時代を生き抜かなければいけなくなった。日本は物質的に豊かになり、便利で、快適で、安全で、大きな不自由なく生きていける社会になりました。その一方で、こういう社会で『一体いつ人々の遺伝子にスイッチが入るのだろう』と思っていました」 岡田に言わせれば、動乱の時代を生き抜くために必要なのは「簡単に諦めないタフさ」であり、「想定外に対応する適応力」であり、「自ら考え、人を巻き込む主体性」であり、「多様な人を包摂するコミュニティー」である。
「人間は一人では生きていけないので、コミュニティーをつくって力を合わせないといけません。その時には『俺についてこい』というリーダーシップよりも、人を巻き込んでいくキャプテンシップが必要だと思うのです。『お上がなんとかしてくれる』ではなく、『みんな』でやっていく。大げさかもしれませんが、リーダーがいない国が悪いのではなく、国民が新しいリーダーの登場を求めてばかりで、その人に全てを委ねようという他人任せな姿勢でいることに危機感があるんです」 FC今治高校には、岡田と同じように既存の教育に疑義があった教員が集まった。最大の特徴はカリキュラムだ。国語や数学などの必修科目を午前中に学び、午後は学校の外に出て〝町をキャンパスにした教育〟を行う。 例えば、ロープの結び方や火のおこし方などを学ぶ「ヒューマンデベロップメントプログラム」や地元企業とタイアップして生徒が新規顧客の獲得に向けた提案などをする「里山未来創造探究ゼミ」に力を入れる。必修科目を教える教員のほか、こうしたカリキュラムを教える専門の人材をそろえているという。 「例えば、AIやICTが発達し、知識や記憶力、論理思考ではChatGPTが人間を凌ぐかもしれません。だとすれば、人間に必要なのは体験という経験値、知恵、直感からくる感覚的な判断などであり、こうしたものが今後はより大切になると思うのです」