8.5差もまさかのV逸…優勝は「もう一生できないんじゃ」 “畏怖”した中日からの刺客
印象深い村田兆治…開幕戦順延でブルペンで隣同士で投げたことも
そんな悔しいシーズンだったが、またひとつ自信をつけたシーズンでもあった。ポイントになったのが8勝目を挙げた8月6日のロッテ戦(西宮)での1-0の無四球完封勝利。村田兆治投手との投げ合いを制してのものだった。星野氏にとっては7月6日の西武戦(西武)以来、1か月ぶりの勝利で、自身の連敗を3で止めた試合。「1-0で村田さんに勝ったのはうれしかったですね」という思い出の白星だ。 「村田さんの失点は(6回裏の)門田(博光)さんのホームランだったんですけど(試合後の)『あそこで逃げるわけにはいかなかったんだよ』っていう村田さんのコメントがかっこよすぎて……。僕の1-0よりもそっちが新聞にも載っていたし、村田さんと門田さんの1対1の勝負は何かちょっとレベルの違うところを感じましたね。試合には僕が勝ったんだけど、かっこいいな、何かスゲーなって思いました。僕ももうちょっと球が速ければなぁとも思いましたけど」 星野氏は翌1990年に初の開幕投手を務めたが、その時に投げ合ったのは当時40歳のロッテ・村田だった。結果は1-4でオリックスの負け。星野氏は6安打、7奪三振で完投したが、3回にロッテ・高橋慶彦内野手に適時打、6回に佐藤健一内野手に2ラン、9回には愛甲猛内野手にソロアーチを浴びて計4失点。村田は2安打11奪三振で、1失点完投勝利だった。この時のことも星野氏はよく覚えている。 「あの試合は1回雨で流れたんですよ。今はたぶんありえないでしょうけど、中止になった日に西宮球場の寮の下のところにあったブルペンで村田さんと隣同士で投げたんです。次の日に2人ともスライドだったんでね。その時に村田さんから『どっちが球数少なく終わるか勝負しようか』って言われたんですよ。いやいやもう最初から完投ありきの話じゃないですか。今思えば、その時点で負けていましたね。村田さんは余裕でしたから」 通算215勝、ダイナミックで個性的な“マサカリ投法”で知られたロッテの大エース・村田との投げ合いも、星野氏にとっては大きな財産になった。投球スタイルは全く異なるが、超一流の技術、考え方などに少しでも触れたことで刺激も受けた。その後の自身の成長にもつながったのは言うまでもない。敵チームながら忘れられない大先輩だ。
山口真司 / Shinji Yamaguchi