『大奥』亀梨和也が一人二役で“人生の重み”を表現 大奥を揺るがす真実が明らかに
後悔はないという田沼(安田顕)が一つだけ見落としていたこと
後悔はないという田沼だが、一つだけ見落としていたことがある。それは心から自分を認めてくれていた者たちの存在だ。吉宗も家重も「田沼を重用せよ」と家治に言い残していた。本来ならば、己の才覚と働きだけで政の要となれていたはずが、田沼は自らの悪事でその功名を汚したのである。田沼に自分が徳川の人間ではないと思い込まされてきたからこそではあるが、家治もまた身分によって分断されぬ世を作りたいと願ってきた。目指す未来は同じであり、田沼が悪事に手を染めさえしなければ、2人は手を取り合うことができただろう。 「それでも悔いはないか」という家治の問いかけに田沼の中で張り詰めた糸がプツンと切れたように見えた。家治は田沼に蟄居閉門を命ずる。もしかしたら田沼自身も背負うものの重さに耐え切れず、罪が暴かれる日をどこかで待っていたのかもしれない。 倫子と家治に立ちはだかる壁が一つ陥落し、残るは定信だけとなった。だが、この国を良くするという名目のもと罪を重ねてきた彼もまた田沼と同類だ。大奥で壮絶ないじめを受けていた松島(栗山千明)が自分を救ってくれたお幸の方から託され、家治を守るため鬼の皮を被ってきたように、そこには必ず鬼になった理由がある。苦しい時代であればなおさら、綺麗な心を保つのは難しい。 もしかしたら、倫子や家治だって何かが一つ違えば鬼になっていたかもしれないのだ。けれど2人は出会い、今もなお互いに向けられた愛情によって清い心を保てている。倫子への思いも遂げられず、自分を慕ってくれた猿吉(本多力)も失った今、一人でか細く立つ定信にも拠り所となる存在がいたらと思わなくもない。 しかし、悪事は必ず明るみになるもの。猿吉の遺体から遺書が見つかり、裏で彼を操っていた存在に家治が気づく。大奥全体を巻き込んだ最後の戦いを見届けたい。
苫とり子